ところが、バブル崩壊とともに、業績が悪化していきます。原因は旅行スタイルの大きな変化。法人の団体旅行の需要が減り、友人や家族など個人旅行の需要が増えた。その流れから白木屋は完全に取り残されてしまったのです。

 

 そうした中、心筋梗塞で父が倒れ、 「そろそろホテルを継ぐ思いにはならんのか」と言われたことがきっかけで、私は大手商社を辞めて入社します。伯父と父は高齢だったので、実務全般を私が担うことになりました。

●白木屋グランドホテルの歩み
1865年湯本温泉にて創業
1964年白木別館をオープンし、客室を増やす
1970年白木屋グランドホテルを開設
1977年増改築工事を実施し、客室数118、宴会場17、総収容人数600人規模に
1990年平井専務(仮名)の父が6代目社長に就任。この頃、売上高が21億円でピークに達する
2000年平井専務が入社。経営全般の実務を担う。売上高は14億6200万円で、既に債務超過
2003年経営改革により、5000万円の利益を計上
2008年リーマン・ショック以降、売上高が10億円を割り、私財投入が頻回に
2014年1月30日、自己破産を申請
創業150年の老舗だったが……

 いざ中に入ってみると、経営状態は相当悪かった。2000年の売上高はピーク時の約3分の2に当たる14億6200万円にまで減少し、経常損益は6000万円の赤字。既に債務超過で、金融機関から新規融資を受けられない状況でした。

 個人客が主流の時代に、画一的な10畳和室が大半。バリアフリーではなく、露天風呂付きの部屋もない。そして何しろ大型改修の資金がなく、建物自体が古い。

埋まらない価値観の差

 「できる範囲で経営改革を進めたい」と考えた私は、最初から伯父や父とぶつかりました。何か新しいことを始めようとすると、決まって反対されたのです。空き時間を見つけては伯父と父、私の3人が社長室の応接セットに座ってやり合う。そんな状態でした。

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