怒鳴りながら指導するのに比べて、丁寧なコミュニケーションには根気が必要ですね。
神田:高圧的な指導では、下の人間は付いてきません。暴力的な指導は怖いから、その瞬間は従うかもしれない。しかし心では「いつか逃げたい」と思っています。
お互いのことをよく分かった上で、日ごろから仕事に一生懸命に取り組んでいる姿を見せていれば、注意しても素直に聞き入れてくれます。「お客さんに迷惑がかかるよ」「自分がそんな接客をされたら嫌でしょう?」と、対等な目線で話しかければいいんです。
能力が低かったり、必要な知識を知らなかったりすることについて怒っても仕方がない。それは経験を積んでいけば解消されます。
命がけで退職を迫った
どうしても叱らなくてはいけなかった場面は、これまでになかったのですか。
神田:嘘をついたり、自己中心的な態度だったりした場合は、厳しい態度で臨みました。社風が乱れたら、私が目指すようなチェーン展開はうまくいきません。
実際、ずっと昔に従業員2人に辞めてもらいました。1人は、若い従業員がまじめに働いている様子を見て、「給料が上がるわけでもないのに、一生懸命やってバカだ」と言い放った。そしてもう1人は、友人との電話中、「俺は吹けば飛ぶようなチンケな店で働いているんだ」と口にしたんです。
店がせっかくいい雰囲気になっているのに、それを壊す社員にいてもらっては困ります。「人手が足りなくなって、店が回らなくなってもいい。労働基準法に引っかかって裁判にかけられてもいい」。そう考えて、怒りはしないけれど毅然と伝えました。「もう来ないでほしい」。命がけでそう退職を促したんです。
当時は従業員が10人でそのうちの2人が辞めるのは、経営者としては痛手でした。でも、人間性を大事に考える社風は絶対に守らないといけないと決断しました。
会社を売上高400億円を超えるまでに成長させた今も、感謝し続けられるのはなぜですか。
神田:何かに挑戦して、壁にぶつかってつらい思いをしながら修羅場を乗り切れば、謙虚になります。そして感謝の気持ちを抱くようになる。逆に漫然と過ごしているだけでは、感謝の気持ちはなかなか持てないでしょうね。
店舗を支えてくれるアルバイトやパートの方への感謝は、さまざまな形で伝えています。毎年イベントに招いてねぎらったり、利益はアルバイトやパートの方にもボーナスとして還元したりしてきました。店舗に足を運んで、感謝を直接伝えることも欠かしません。こうやって周囲に感謝し続けて、会社を成長させてきたのです。
世の経営者は従業員をよく怒っていますね。しかし、それは本当に必要でしょうか?

(この記事は、「日経トップリーダー」2019年5月号の記事を基に構成しました)
「破綻回避セミナー」を開催します
元社長の生講演を基に、受講者全員、企業再生の専門家、日経トップリーダー編集長が「失敗の法則」と「打ち手」を全員で議論します。
「成功はアート、失敗はサイエンス」と言われます。成功事例からはたくさんのヒントが得られますが、自社にそのまま当てはまるとは限りません。一方、失敗事例は再現性が高く、ほぼそのまま自社に置き換えることができます。本講座では、図らずも会社を倒産させた元経営者1人が登壇。貴重なケーススタディーを題材に倒産の真因を皆でディスカッションし、業績悪化を防ぐ視点を養い、リスクマネジメント力を高めます。

●登壇者/寺町昌則氏(テラマチ元社長)
西日本を代表する部品メーカーとして知られていたテラマチの3代目社長。同族経営の強みを生かし、「はやぶさ2」の部品にも使われるほど技術力のあった会社。しかし2016年に経営破綻しました。書籍『なぜ倒産』での告白内容を深く掘り下げます。
●専門家/金子剛史氏(MODコンサルティング代表)
中小企業の再生を専門にする会計士・税理士。支援先に入りこんで再生をする手法を取っているため、企業が陥りやすい重要な問題を鋭く浮き彫りにします。
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