正しい利益が出ていれば、正しい戦略も描けますね。

金子:利益率が前月の30%から26%に下がったとします。「計算が適当で、どうせ実態に即していない」と思っているときなら、誤差の範囲内なのかもしれませんが、普通に考えれば4%の差は大問題です。一体、どの得意先のどの製品の利益率が下がったのかと気になりませんか。そうした異変も正確な数字があってこそです。

 中小企業の社長は皆、資金繰り表は作成し、ちゃんと見ています。資金繰り表だけを気にしていれば大丈夫という社長もいますが、とんでもない。しかも、その資金繰り表の数字がまたあやしいのです。P/L、B/Sの数字に連動していなければいけないのに、思い切りずれていることがよくある。

「P/Lはこうなのに、おかしくないですか」と私が尋ねると、「そのへんはよく分からないな。とにかく、こういう資金繰りだから何とかなると思います」などと言う。資金繰り表とP/L、B/Sが全く別物として扱われている。

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管理担当者は悪くない

正しい利益を計算するには、社長が経理担当者にしっかり指示をすればいいのですか。

金子:在庫評価の甘さを問いただすと「うちの管理担当者がちゃんとしていないんで」と言う社長がいますが、管理部門には責任はない。管理部門の人は社長から言われれば正しく作ります。

 数字を見る人、つまり社長が気にしないから、そこまでしないだけです。「どうせうちの社長は細かく見ないんだから、前月の原価をそのまま並べておけばいいよ」となる。

 売り上げより利益が大事と頭では分かっているつもりでも、実際には売り上げ重視から抜け切らない社長はとても多いですね。私と一緒に再生計画を描き、利益目標を設定したのに、会議では「このままだと売り上げは前期を超えそうだな。よしよし」といったハッパを社員にかけるのです。

 私が社外役員でいても、社員が見ているのは、やはり社長です。社長が何を気にして、どうすれば社長が褒めてくれるのか。それをよく見ています。社長が「今月は頑張って売り上げを伸ばしたな」と社員を褒める様子を見ていると、いくら利益計画を立てても、社員は利益を気にしなくなる。私の発言なんて耳に入りません。

どうすれば、売り上げばかり重視する「売り上げ脳」から脱却することができますか。

金子:最初はウソでもいいから、売り上げより利益を気にしているのだと社員にアピールする。会議でも利益にしつこく言及すると、社員は自然に利益を気にするようになります。データの正確性についても、気になるそぶりで「なんで利益率が毎月こんなに変動するの」と聞いてみるんです。

 管理部門が「それは月末の在庫評価が不正確なので増減するのです」と答えたら、「ああ、そうか」じゃなく、「ちょっとこれ見直そうよ」と、気になってしょうがないフリをする。管理部門が「そんな手間のかかることをしたら、毎月締めてから作成まで2カ月かかります」と、できない理由を言ってきても引き下がってはいけない。

 そうやって気にしているとデータの精度が上がる。正確なデータは組織のパフォーマンスを如実に反映しますから、社長も社員もだんだん見るのが楽しくなる。ウソが本当になるのです。組織全体で利益にこだわると、業務の効率化が図れ、働き方改革も実現できて、皆ハッピーになるはずです。

(この記事は、「日経トップリーダー」2019年3月号の記事を基に構成しました)

倒産企業はどうすればV次回復できたのか?
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「成功はアート、失敗はサイエンス」と言われます。成功事例からはたくさんのヒントが得られますが、自社にそのまま当てはまるとは限りません。一方、失敗事例は再現性が高く、ほぼそのまま自社に置き換えることができます。本講座では、図らずも会社を倒産させた元経営者1人が登壇。貴重なケーススタディーを題材に倒産の真因を皆でディスカッションし、業績悪化を防ぐ視点を養い、リスクマネジメント力を高めます。


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西日本を代表する部品メーカーとして知られていたテラマチの3代目社長。同族経営の強みを生かし、「はやぶさ2」の部品にも使われるほど技術力のあった会社。しかし2016年に経営破綻しました。書籍『なぜ倒産』での告白内容を深く掘り下げます。

●専門家/金子剛史氏(MODコンサルティング代表)
中小企業の再生を専門にする会計士・税理士。支援先に入りこんで再生をする手法を取っているため、企業が陥りやすい重要な問題を鋭く浮き彫りにします。

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