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売り上げ・利益至上主義ではやがて会社が回らなくなる。社員の努力が儲けと連動せず、社員が疲弊してしまうからだ。では中小企業の社長はどういう視点を持てば、慣れ親しんだ経営から脱却できるか。著書『ファイナンス思考』で知られる、元ミクシィ社長の朝倉祐介氏に聞いた。

朝倉さんの著書『ファイナンス思考』は、目先の売り上げや利益だけを追い求める「PL脳」による経営の危うさに警鐘を鳴らして話題を呼びました。

朝倉:書名に採った「ファイナンス」は、一般的には資金調達をイメージすることが多いと思います。しかし私は「会社の価値を最大化するために繰り返す活動」という意味で使っています。会社の価値は上場企業なら株式の時価総額で表せるし、非上場の中小企業なら顧客からの期待値に相当するかもしれません。

 もう少し厳密に言うなら、ファイナンスとは「金融機関からの借り入れや自社の事業による利益でお金を確保し、それを今後の事業投資や資金の貸し手への返済に充て、そうした一連の経緯を必要に応じて金融機関などの関係者にきちんと説明し、株主や従業員の満足度を高めること」といった感じになります。だから売り上げや利益の向上を目指すことは、全体のうちの一つを担うパートとしては重要です。

 しかし、それをすべてと捉えた経営は危険です。例えば今期の利益確保に躍起になるあまり、将来に向けて必要な投資を手控えると、後にもっと得られるはずの利益を自らの手で潰しかねません。本来は長期的な視点に立った投資で、会社の価値を上げていくべきだというのが私の考えです。

朝倉祐介(あさくら・ゆうすけ)
シニフィアン共同代表、元ミクシィ社長兼CEO。東京大学在学中に設立した会社をミクシィに売却して同社に入社。ミクシィの業績回復を機に退任。2017年にシニフィアンを共同設立する。18年、『ファイナンス思考』(ダイヤモンド社)を上梓

PL脳の強い呪縛

とはいえ「増収増益」や「黒字経営」は好ましいことですよね。

朝倉:その通りです。ただし、会社の価値を最大化することが経営者の使命なのですから、そのための赤字を恐れてはいけません。

 ファイナンスは経営の基本です。けれども経営者の多くはそれを深く考えずに、意思決定をしてきたのではないでしょうか。

 過去に日本企業が成長を続けてこられたのは、市場が右肩上がりで直線的に拡大成長してきたから。「売り上げを伸ばそう」「利益を稼ごう」という会社のかけ声の下、目の前のビジネスを続けるやり方が結果的に理にかなっていた。そうした成功体験があるがゆえに、多くの経営者は「PL脳」からなかなか卒業できません。