全5080文字

京セラ名誉会長の稲盛和夫氏はかつて、一つの疑問を抱いていた。一時期、成功を収めたのに、晩節を汚す経営者が多いのはなぜか――。2007年、東京証券取引所で語った言葉をひもとく。

(写真=菅野勝男)

 カルロス・ゴーン日産自動車元会長の捜査の行方はいまだ判然としないが、漏れ伝わる話を聞くたび、ある講演を思い出す。稲盛和夫氏が2007年5月に東京証券取引所で登壇したときのものだ。聴衆は、東証マザーズに上場していた経営者たち。

 前年の06年、急成長企業ライブドアの粉飾が事件化し、時代の寵児、堀江貴文社長(当時)の逮捕へと発展した。株式市場は揺れに揺れた。そのライブドアの上場廃止を最終的に決断したのが、東証社長を務めていた西室泰三氏だった。

 東芝の社長・会長を歴任し、世を去るまで隠然たる影響力を持ち続けた「東芝の妖怪」は、市場混乱の沈静化に奔走する。そんな西室氏が一息ついた07年に企画したのが、稲盛氏の講演会だった。

 演題は「なぜ経営に哲学が必要なのか」。業績と株価に関する無数の数字がうごめく証券取引所で、哲学をテーマにした講演会が開かれたことは興味深い。

 稲盛氏を招いた西室氏の真意は定かではないが、松下幸之助氏が獲得した「経営の神様」の称号を引き継ぐ最右翼であろう名経営者が、ひとかどの成功を収めた上場企業経営者たちに講義するという、見ごたえのある場はこうして始まった。

 司会者による型通りの紹介の後、稲盛氏はこう切り込んだ。

「私は、戦後の日本を引っ張ってこられた創業型の経営者の後ろ姿を学びながら、今日までやってきました。皆さん、素晴らしい経営をされてこられましたけれど、晩年までいい会社の状態でもって、ハッピーリタイアメントされた方というのは非常に少ないんですね。

 会社を破綻させてしまう人もたくさんいました。会社は残っておりますけど、創業者自身がいろんな問題を起こして辞めていく、追放されてしまうケースもたくさんありました。会社を発展させる希有な才能を持っているのに、実は10年、20年、30年というスパンで素晴らしい人生を過ごしておられるケースが非常に少ない。

 それを見るにつけ、私はとても残念だなと。なぜそういうことになったのか。本来ならば、素晴らしい経営者として周囲から賞賛されながら晩年までいかなきゃならないのに、どういうことなんだろうと。

 今日はその原因について話をしてみたいと思います」

 なぜ今、12年前の「東証講演」に引き寄せられるかというと、経営者の晩節にフォーカスした内容だからだ。言うまでもなく、このときの稲盛氏の講演は、現在のゴーン氏の一件と何の関係もない。ゴーン氏は「創業型の経営者」でもない。だが、この講演で稲盛氏が指摘したことは、ぜひ読者諸兄姉に、そしてかなうものならば、ゴーン氏にも知ってもらえたらと思う。