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 今日は主役を演じているけれど、明日の劇では別の人が主役を演じてもよい。にもかかわらず『オレが、オレが』と言っている。それこそが、自分のエゴが増大していく元になるように思うのです。

 自分の才能は、世のため人のため、社会のために使えといって、たまたま天が私という存在に与えたのです。その才能を自分のために使ったのでは、バチが当たります。エゴを増大させていっては身の破滅だと思った私は、それからエゴと闘う人生を歩いてきました」

朝食はコンビニ弁当

 稲盛氏は、内から突き上げるエゴとの闘いをずっと重ねている。1997年には得度した。仏教の教えを経営に生かす経営者は多くても、仏門に入る経営者は限られる。一時は托鉢や辻説法にも出ていた。

 日々の生活でも、稲盛氏は贅沢(ぜいたく)を慎んでいる。日本航空の経営再建中、東京の定宿にしていた高級ホテルでは、ホテルの朝食が豪華過ぎて量も多いということから、稲盛氏自ら、近くのコンビニエンスストアで数百円の弁当を毎朝のように買い求め、ホテルの部屋で食べていた。

 また、今も毎朝、洗面台に向かうときには「神様、ごめん」と言う。具体的に何かをしたから謝るのではなく、昨日までの自分の人生で何か間違いがあったはずだと思うから、「ごめん」と言うのだそうだ。

 稲盛氏ほどの名声を手に入れれば、楽をしようと思えばいくらでも楽をできる。誰かに謝ることも少なくなるだろう。だが老境の域に入った今も、エゴが頭をもたげることを防ごうとする。稲盛氏が主宰する盛和塾の塾生たちは皆、最初のうちは稲盛氏の人懐こい笑顔にほだされて近づくが、話せば話すほど鬼気迫る稲盛氏の激しい克己心に触れて、思わず後ずさりをする。

 稲盛氏は東証講演をこう締めくくった。

 「私たちは心の中に、良心という自分とエゴという自分を同居させているのです。ピュアな真我と卑しい自我が同居しているのが、人間の心なのです。お釈迦さまは、人間とはスタボン(頑迷)で、少しでも手入れを怠ると欲にまみれると知っていますから、『足るを知りなさい』とおっしゃった。『オレがオレが』『もっともっと』と際限もない欲望を膨らませてはいけないのです」

 経営者は慎ましやかな生活をせよ、と稲盛氏は言っているのではない。エゴが増大して、自分でも、そして周囲からも手がつけられなくなったとき、経営者は判断を誤り、社員の心も離れていく。報酬の多寡ではなく、「オレがオレが」という気持ちを抑えることを説いているのである。

(この記事は、「日経トップリーダー」2019年2月号の記事を基に構成しました)

「誤算に学ぶ経営者の本音セミナー」第3期のお知らせ

 一昨年、昨年と開催し、いずれも受講者から大きな反響のあった「誤算に学ぶ経営者の本音セミナー」。今年も、その第3期を開催することになりました。

 このセミナーは「経営者の誤算体験を、生で、深く聞ける機会が欲しい」という読者の声から生まれたものです。経営というのは、成功と失敗が背中合わせです。表向きにはどんなに順調に見える会社でも、必ず何かしらの誤算や危機に直面した経験があるものです。ただ、そうした内情はなかなか外には出てきません。今回、特別に4人の経営者・元経営者の方にご登壇いただくことになりました。

 破綻した老舗和菓子店「花園万頭」を率いていた元7代目社長の石川一弥氏。技術ベンチャーとして一斉を風靡したにもかかわらず、会社を追われたスノーヴァ元社長の大塚政尚氏。内部告発がきっかけで株式上場を直前で諦めた美容室チェーン、アトリエはるか社長の岩井大輔氏。裏切りや事業失敗など数多くの誤算を重ねてきたクラウドワークス社長の吉田浩一郎氏。4人からそれぞれの事情、それぞれの振り返り、それぞれの教訓を赤裸々に語ってもらいます。

 成功の物語からは得られないリアルな経営のヒントが得られるはずです。経営者の講演と併せて、さまざまな分野の専門家から、誤算を防ぐためのノウハウもお話しいただきます。興味本位でなく、真剣に経営に向き合っている方のご参加をお待ちしています。

 詳しい内容は以下のリンク先をご覧ください。

「誤算に学ぶ経営者の本音セミナー」第3期