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日本では知られた「エステー」のブランドも海外では無名。アジア市場の攻略では10年以上苦戦が続いていた。売れない理由は、現地ニーズの軽視と戦略の不在。そう考えた鈴木社長の“一点突破”のマーケティングとは。

 2017年9月、エステーは海外での市場開拓に向け、新たな一歩を踏み出しました。タイで消臭芳香剤「SHALDAN Kawaii Plus(シャルダン カワイイ プラス)」の発売を開始したのです。

エステーがタイ市場を開拓するための独自商品として発売した消臭芳香剤「SHALDAN Kawaii Plus(シャルダン カワイイ プラス)」

 なぜ「新たな一歩」なのか。この商品は日本未発売、タイ独自の新商品なのです。

 実は海外市場への進出そのものは10年以上前からタイやフィリピン、韓国などで始めていました。アジアが中心です。しかし、そこで売り込んでいたのは海外営業担当が自分の感覚を頼りに選んだ日本での売れ筋商品。ともすると日本では“やや時代遅れ”になった商品のほうが売れるという意識すらあったのです。その結果、売り上げが伸び悩んでいました。

 それを象徴するような光景を目の当たりにしたのは私がエステーに入社する1年前、09年のことでした。外部コンサルタントとしてエステーに関わることになり、タイやフィリピンにある海外関係会社の工場を視察しました。しかし訪問先で生産ラインに並んでいたのは見慣れない他社の台所用洗剤ばかりだったのです。

鈴木貴子(すずき・たかこ)
1962年東京生まれ。84年に上智大学外国語学部を卒業。日産自動車、LVJグループ(現・LVMH GROUP)などを経て2010年エステー入社。12年取締役兼執行役グローバルマーケティング部門特命担当。カリスマだった先代の後を継ぎ、13年社長就任(写真/小野さやか)

 「え、どうしてこんなことになっているの?」

 思わず声を上げましたが、エステーの製品がなかった理由は簡単です。需要が少なく、専用の生産ラインを立ち上げられない。稼働率を考えると、他社のOEM(相手先ブランドによる生産)を受託せざるを得ないというわけです。

 社長就任後も、あの衝撃を忘れたことはありませんでした。私から見れば問題点は明白。アジア市場を甘く見ているからです。投入する商品をいいかげんに決めているから売れないし、現地法人の工場も本気で作る気になれない。

 だから社長就任後、社員に言いました。「ゼロベースで海外向けの製品を開発しましょう」。