脱獄したお尋ね者が、なんとフランス財務大臣に! 驚きの成り上がり人生を歩んだギャンブルの達人、ジョン・ロー。しかし、自ら生み出した世界最大級のバブルが弾けた後、流浪の末に無一文で死を迎える――。経済学の巨人シュンペーターが絶賛し、ガルブレイズをもうならせた奇才の、鮮やかすぎる経済理論と転落劇。
一七二九年三月二十一日、男はイタリア・ヴェネチアで五十八年の生涯を終えた。
男はかつてフランスの「財務大臣」と「中央銀行総裁」、そして巨大国営企業のトップを兼任する経済界の支配者だった。パリ中心部にあるヴァンドーム広場の三分の一は男のもので、この他にも数多くの不動産を保有する大金持ちでもあった。
我が世の春を謳歌していた男だったが、ある日突然にフランスを追われ、放浪の末にヴェネチアにたどり着いた。死期が迫る中、男は遺言状を作るようにと促された。しかし、「自分の財産は全てフランスにあって、債権者に差し押さえられている。遺言状を作っても無意味だ」と語ったという。
男の名前はジョン・ロー(John Law)。

その経済政策は窮地にあったフランス経済を劇的に回復させると同時に、数多くの大金持ちを生み出した。「ミリオネア」という言葉が誕生したのもこのときで、ローの経済政策の恩恵を受けて、大金持ちになった人々を呼ぶためのものだった。後にこの男は、経済学者シュンペーターから賛辞を受け、ガルブレイズをもうならせることになる。
世界初の「ミリオネア」
しかし、ローとミリオネアたち、そしてフランス国民も突如として奈落の底に突き落とされる。ミリオネアたちは全財産を失い、経済は大混乱に陥り、非難の的となったローはフランスを逃げ出したのであった。
ミリオネアを生んだ経済政策とは何なのか。なぜ、人々は奈落の底に落とされることになったのか。一度はフランス経済を支配し、巨万の富を獲得した男は、どのような失敗を犯して、一文無しで生涯を終えることになったのだろう。
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