富も名声も得たはずのカリスマが、貧しく寂しい最期を迎える。それはなぜ? ビジネスと人生の失敗学を探求する本連載。第1回に取り上げるのは、天才科学者ニコラ・テスラ。電気自動車のテスラを率いるイーロン・マスクCEOをはじめ、スタートアップ界隈を中心に今も多くのファンを持つ。発明王エジソンを負かしたはずが、ホテルの一室で孤独死。どうして一体、こんなことに――。
ホテルの部屋で孤独死
男が暮らしていたホテルのドアには、“Don't Disturb(起こさないでください)”という札が三日間もかけられたままだった。不審に思ったメイドが中に入ってみると、男はベッドで息絶えていた。検死の結果、死亡推定日時は一九四三年一月七日の午後十時半、死因は冠動脈血栓症とされた。
男は自宅を持たず、長年ホテル暮らしを続けてきた。かつてはウォルドーフ・アストリア・ホテルなどの名門ホテルを定宿とし、食事もホテルの高級レストランで取るという贅沢な暮らしをしていた。しかし、晩年は借金を抱えて支払いが滞り、宿泊費の安いホテルに移らざるを得なくなっていた。
男の日課は近くの公園にいるハトのエサやりだった。体調がすぐれないときには、ホテル従業員に「代行」を依頼するほど溺愛していたという。生涯独身で極度の潔癖症、身の回りの世話を他人に委ねることを拒んでいた男にとって、公園にいるハトが唯一心を開くことができる存在だったようだ。
男の名前はニコラ・テスラ(Nikola Tesla)。

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