上田準二さんの「お悩み相談」。今回はキャリアパスに悩む38歳の医師からの投稿です。子育てしつつ希望の職種に転じるにあたり、時代錯誤的な働き方を求める職場慣習が障害になっているようです。上田さんは「尻込みせずに、私ならできると宣言することから始めよう」と助言します。
※読者の皆様から、上田さんに聞いてほしいお悩みを募集しています。仕事、家庭、恋愛、趣味など、相談の内容は問いません。ご自由にお寄せください。
悩み:子育てしながらのキャリアプランに悩んでいます。女性で上位ポストに就けるのは、男性同様の働き方ができる人ばかり。実家や夫のサポートが得られない場合、希望の仕事は諦めるべきでしょうか。
38歳の医師です。4歳と1歳の子供を育てながら働いているのですが、思い描いていたキャリアパスから遠ざかっている気がして悩んでいます。組織でこれ以上努力しても無駄なのか、もう少し頑張るべきなのか。日々揺れ動いています。
希望しているのは研究の仕事です。大学病院で低賃金の仕事をひたすらこなし、不妊治療を経て第1子を出産。その後、海外留学もしました。しかし帰国後の職として提示されたのは、大学病院ではなく私立病院の臨床医のポストでした。週4日そこで働きながら、週1日は大学病院で実験助手として勤務しています。
臨床の仕事にやりがいはあり、第2子も授かったので今の職場には感謝しています。しかし、研究がしたいと思って大学病院の元の上司に相談すると、ポストの空きがないというのです。「子供を抱えて実家の助けも得られない女性医師には仕事を与えられない」と言わんばかりの態度でした。
大学病院は一般企業より20年は遅れています。女性で上位ポストに就けるのは、独身か子供がいないか、実家のフルサポートを得られるかのいずれかです。つまり男性同様の働き方をしなければなりません。私と夫の実家は遠方にあり、協力を得るのは難しいです。夫も育児に協力してくれますが、ギリギリのところでやりくりしているのが実情です。
自分がやりたいことを優先して、他の男性と同じ働き方をすると宣言するのか、それとも研究への執着をいったん捨てて今の職場で成果を出すのか。自分の能力を高めれば解決できるのかもしれませんが、ちょっと限界です。何かアドバイスをいただけるとうれしいです。
(38歳、女性、専門職)
上田準二:難しい相談だね。僕はかつて、ある国立大学の評議員を3年ほど務めた経験があるんだけど、国からの交付金を除くと大学の付属病院の収入が最も大きかった。国からの交付金が減るのと反比例するように、大学病院に稼いでほしいというプレッシャーは年々高まっていった気がするね。でも、なかなかうまくいかない。大学病院の仕組みや考え方が一般企業と比べて相当遅れているのは間違いないからね。
そうした世界で相談者さんは頑張っておられる。子育てと仕事を両立させるために、日々、大変な努力をされているんだと推察します。すごいことだと思いますよ。ただ、現状に流されるだけでは悪循環に陥ってしまう。投稿からも無力感というか、ネガティブな感情が透けて見えるしね。ここはバーンと考え方を転換してみるべきじゃないかな。「私はやるんだ」「できるんだ」と、まずは心の中で唱えてみましょう。
小笠原啓(日経ビジネス編集):何となく、突き放したような印象を受けますね。
上田:そう聞こえるかもしれないけれど、困難な状況に直面したときに大事になるのは心の持ちようだよ。「難しい」「できない」という考えにとらわれると、いつの間にかその思考が現実のものになってしまう。視点を思い切って180度転換してみてはどうですか。
とにかく「できる」「やるんだ」と考え続けると、問題の本質が見えてくる。大学病院が男性同様の働き方を求めているのなら、「私は男性と同じ業務量をこなせます」と宣言する。「2人の子供を育てている女性ですが、何か問題ありますか」と、逆に質問してやればいいんですよ。実家の援助がなければ無理だというのは、相談者さんが自分でそう思っているだけかもしれないよ。
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