人生トータルで考えると、何がいいのか

大竹:そうですね。
上田:以前僕は、同期会とか同窓会とかに出たとき、ずっと平社員で終わった方のほうがかえって元気がいいと感じるということを回答したと思う。というのは、早めに定年退職になり、定年延長もせずにそれ以降、会社から離れて生活している人の中には、それまでの会社人間としての生活で失っていた人生を取り戻して生き生きしている人が意外と多いんですよ。
会社とは全く関係ない、趣味のサークルだったり地域の活動だったり、いろいろな会合でリーダーシップを発揮して活躍している。そういう人が、たくさんいます。
僕がまだ現役だったころに、そんな同期から言われたことがあるんですよ。「おまえは管理職になって大変だろう。業務はきついし、ストレスも多いし。俺なんか、きっちりと平社員の仕事を全うして、管理職を望まずに楽しく生きているよ」とね。その人は、あるときにそう割り切って、定年で退職する前から、そういう感じで自分に与えられた仕事のミッションは平均的にきっちりと果たしながら、仕事以外の人生をしっかりと積み重ねて、会社の外で活躍の場を見いだしていたんです。
長い人生を考えると、会社を離れたときに、仕事以外の経験をどれだけ積んでいて、発想を豊かに保てるかが、その後の生き方を大きく左右すると思うんです。僕は同期の彼によく相談したものですよ。この先、どうやって生きていくんだとね。彼は、人生を仕事だけではなくて、トータルで見ていたんだなと、つくづく思いますね。
だから、節目節目で自分の考え方をリセットして、人生をトータルでどうやって楽しく生きていくかを考えることが必要だと思いますね。
それともう1つ、管理職の役職がない世界を望んでいらっしゃいますが、それは難しいでしょうね。
やはり、一人ひとりが自己研さんしていく中でステップアップして、その中からリーダーになり、管理職になるという人が出てくることで組織は回っていくんです。全部横並びで一緒、という世界では、組織はかえって活力を損なっていくんじゃないかなと思いますね。
大竹:ある程度、競争があったほうがいいということですね。管理職になれない人がいても、それは組織としては仕方のないことだと。
上田:ええ。それは会社だけじゃなくても、この世界が競争社会である限り、そういうことは仕方がありません。一方で、これまでの日本の会社では、社員のモチベーションを維持するためにいろいろな工夫をしてきたんです。例えば、部長は1人でも、同じ部に部付部長とか担当部長とか部長補佐とか、そういう役職が付いた人がいることもありますよね。
部長権限はないけれども、部長に近い待遇と肩書を与えているわけです。仕事としては、その部の若手、あるいは課長に対して、アドバイスや指導をしてもらう。ただし、部長としての権限と責任はない。
こうした工夫が、管理職になれない人のモチベーションを維持するための、これまで日本企業がやってきた最大限の仕組みでしょうね。
管理職になれなかった人は、一度気持ちをリセットして、そういう世界から離れた中で自分が楽しく生きていく方法を考えて行動を起こしたほうがいいと思いますね。過去にとらわれてはいけませんよ。
大竹:今回相談をしてくださった方は76歳。この先、どうやって気分を変えていったらよいでしょうか。
上田:人生100年時代と言われているので、あと20年、場合によっては30年も人生が続くかもしれません。過ぎ去ったことを悔やんで残りの人生を送るよりも、明日からのことを考えることに、常に気持ちを立脚させましょう。あなたが悔やんできた過去を、これからの人生でどうやってリカバリーしていくかに、気持ちを切り替えたほうがいいと思います。
大竹:そのためにはどうしたらいいでしょうか。何か没頭できる趣味を見つけるとか?
上田:没頭できる趣味、あるいは没頭できるサークル活動。それから、奥さんがいらっしゃるのなら、旅行なり、共通の趣味を持つなり、とにかく、これまでの人生ではできなかったこと、やってこなかったことを始めてみてはどうでしょうか。
毎日、さあ、次は何しよう、何しようと考えて生きるんです。明日は何しようと、来週は何しよう、来月は何しよう、来年は何しようとね。
まさしく僕は、完全に会社から自由の身になりましたから、これをしなければいけない、あれをしなければいけない、ということはもう、考えなくて済むようになりました。僕自身、今日何をしよう、明日何をしよう、来週何しようと、いつも考えています。会社から離れると、自由で楽しい世界をつくれるはずです。それをどうつくるかに神経を集中させましょう。
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