上田準二さんの「お悩み相談」。 今回は、がむしゃらに働いたのに「管理職になれなかった」との未練を抱き続ける男性の悩み。76歳になった今でも、悔しさのあまり夢に見るとのこと。上田さんは「明日は何しよう、来週は何しよう、来月は何しようと、来年は何しようと、前を向いて生きよう」とアドバイスします。
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>>悩みの投稿<<
悩み:管理職になれなかった悔しさを、76歳になった今でも夢に見ます。がむしゃらに働き、是が非でも管理職になりたかった。管理職と平社員を分ける組織の在り方が間違っているとも思います。この悔しさ、どうしたらスカッと晴らすことができるでしょうか。
8月5日付の、当お悩み相談で管理職のサラリーマンの方の投稿内容を読みましたが、私としては「管理職になっているのに、何を甘ったるいことを言っているのだ」と思いました。「気合を入れ直せよ!」ですよ。
(編集部補足:こちらの記事です→「やりたいこと」はなくていい。40代以降は「will」より「shall」)
同じく8月6日付で『嫌われる勇気』の著者が、「土下座してでも出世したいか」ということを語っていましたが、私は「土下座してでも出世したかった世代」の一員としてサラリーマンをしていました。
(編集部補足:こちらの記事です→『嫌われる勇気』著者、土下座してでも出世したいか?)
私は数十年前まで、都市銀行の銀行マンでした。同じ銀行の他の支店との預金獲得競争、さらに都市銀行同士の預金獲得競争など、本当にむちゃくちゃな競争に明け暮れていました。夜8時ごろ、「夜間外交」といって個人宅に訪問して、預金のお願いをすることもザラでした。自宅に帰るのは夜の11時、12時という生活を続けていました。
そして一生懸命、人並みに頑張っても出世できない者もいます。私も一生平社員で終わりました。管理職になるとならないでは、生涯年収で6000万円ほども差が出るといわれ、是が非でも管理職になるために皆、歯を食いしばって仕事をしていました。銀行という組織が、管理職をすごく魅力的な存在に仕立ててきたので、是が非でも管理職になりたかったのです。
同僚や後輩が出世したという話を聞くと、当時は胸が苦しくなっていました。そして70歳を過ぎた今でも、管理職になれなかった悔しさが夢に出てきます。それは、一生忘れられない心の傷になっています。
そのストレスが原因でしょうか。今は心臓病を患っています。役職制度なんて、本当に必要なのでしょうか。私としては そんな制度はないほうが、伸び伸びと、生き生きと仕事ができると思います。
私が言いたいことは、世の中は公平でないということです。誰でも管理職になれるわけではありません。そこで、○○部長とか○○課長とかいう役職をやめて、職務別管理にして、例えば営業部長を営業管理とか、○○課長を推進管理とか、そういうふうに工夫したほうが誰もが生き生きと働ける職場になり、生産性も上がるのではないでしょうか。
そして、ある程度の年齢が来たら、誰でもそのポストを担えるように研修などで人材を育て、ポストに人材を固定化しないようにしていくのが望ましいと思います。
人口減少社会で、そんなに管理職を作ってもしょうがないですよ。
ちなみに私のお悩み相談は、過去に管理職になれなかったストレスを発散する、何かスカッとするいい方法はございませんか、というものです。ぜひ、教えてください。
(76歳 男性 無職)
大竹剛(日経ビジネス編集):この方は、管理職になりたかったのだけどなれなかった、ということが心の傷となり、70歳を超えた今でも時々悔しさが夢に出てくるそうです。相談内容としては、管理職になれなかったという悔しさ、ストレスを発散する、スカッとする方法を教えてくださいというものですが、会社という組織の頂点まで上り詰めた上田さんはどう思いますか。
上田準二:こういう相談は時々いただきますよね。同じ大学を卒業して別の会社に入った同期の集まり、同窓会などにリタイア後に集まったとき、自分は管理職になれなくて平社員で終わったとか、そういうことに引け目を感じるだとか、コンプレックスを感じるだとか、そんな悩みは仕事に人生をささげてきた男にはつきものだね。
人生トータルで考えると、何がいいのか
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングス(現ファミリーマート)の代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味はマージャン、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。2019年5月末に相談役を退任。(写真:的野弘路)
大竹:そうですね。
上田:以前僕は、同期会とか同窓会とかに出たとき、ずっと平社員で終わった方のほうがかえって元気がいいと感じるということを回答したと思う。というのは、早めに定年退職になり、定年延長もせずにそれ以降、会社から離れて生活している人の中には、それまでの会社人間としての生活で失っていた人生を取り戻して生き生きしている人が意外と多いんですよ。
会社とは全く関係ない、趣味のサークルだったり地域の活動だったり、いろいろな会合でリーダーシップを発揮して活躍している。そういう人が、たくさんいます。
僕がまだ現役だったころに、そんな同期から言われたことがあるんですよ。「おまえは管理職になって大変だろう。業務はきついし、ストレスも多いし。俺なんか、きっちりと平社員の仕事を全うして、管理職を望まずに楽しく生きているよ」とね。その人は、あるときにそう割り切って、定年で退職する前から、そういう感じで自分に与えられた仕事のミッションは平均的にきっちりと果たしながら、仕事以外の人生をしっかりと積み重ねて、会社の外で活躍の場を見いだしていたんです。
長い人生を考えると、会社を離れたときに、仕事以外の経験をどれだけ積んでいて、発想を豊かに保てるかが、その後の生き方を大きく左右すると思うんです。僕は同期の彼によく相談したものですよ。この先、どうやって生きていくんだとね。彼は、人生を仕事だけではなくて、トータルで見ていたんだなと、つくづく思いますね。
だから、節目節目で自分の考え方をリセットして、人生をトータルでどうやって楽しく生きていくかを考えることが必要だと思いますね。
それともう1つ、管理職の役職がない世界を望んでいらっしゃいますが、それは難しいでしょうね。
やはり、一人ひとりが自己研さんしていく中でステップアップして、その中からリーダーになり、管理職になるという人が出てくることで組織は回っていくんです。全部横並びで一緒、という世界では、組織はかえって活力を損なっていくんじゃないかなと思いますね。
大竹:ある程度、競争があったほうがいいということですね。管理職になれない人がいても、それは組織としては仕方のないことだと。
上田:ええ。それは会社だけじゃなくても、この世界が競争社会である限り、そういうことは仕方がありません。一方で、これまでの日本の会社では、社員のモチベーションを維持するためにいろいろな工夫をしてきたんです。例えば、部長は1人でも、同じ部に部付部長とか担当部長とか部長補佐とか、そういう役職が付いた人がいることもありますよね。
部長権限はないけれども、部長に近い待遇と肩書を与えているわけです。仕事としては、その部の若手、あるいは課長に対して、アドバイスや指導をしてもらう。ただし、部長としての権限と責任はない。
こうした工夫が、管理職になれない人のモチベーションを維持するための、これまで日本企業がやってきた最大限の仕組みでしょうね。
管理職になれなかった人は、一度気持ちをリセットして、そういう世界から離れた中で自分が楽しく生きていく方法を考えて行動を起こしたほうがいいと思いますね。過去にとらわれてはいけませんよ。
大竹:今回相談をしてくださった方は76歳。この先、どうやって気分を変えていったらよいでしょうか。
上田:人生100年時代と言われているので、あと20年、場合によっては30年も人生が続くかもしれません。過ぎ去ったことを悔やんで残りの人生を送るよりも、明日からのことを考えることに、常に気持ちを立脚させましょう。あなたが悔やんできた過去を、これからの人生でどうやってリカバリーしていくかに、気持ちを切り替えたほうがいいと思います。
大竹:そのためにはどうしたらいいでしょうか。何か没頭できる趣味を見つけるとか?
上田:没頭できる趣味、あるいは没頭できるサークル活動。それから、奥さんがいらっしゃるのなら、旅行なり、共通の趣味を持つなり、とにかく、これまでの人生ではできなかったこと、やってこなかったことを始めてみてはどうでしょうか。
毎日、さあ、次は何しよう、何しようと考えて生きるんです。明日は何しようと、来週は何しよう、来月は何しよう、来年は何しようとね。
まさしく僕は、完全に会社から自由の身になりましたから、これをしなければいけない、あれをしなければいけない、ということはもう、考えなくて済むようになりました。僕自身、今日何をしよう、明日何をしよう、来週何しようと、いつも考えています。会社から離れると、自由で楽しい世界をつくれるはずです。それをどうつくるかに神経を集中させましょう。
負の記憶は常に記憶によみがえる、だからこそ前を向こう
大竹:上田さんは、働いていたころを懐かしく思うようなことはありませんか。
上田:僕自身はどちらかというと楽しかったことよりも、失敗したことや苦しかったこと、人との関係において非常にマイナスだったことを思い出すね。時折、記憶によみがえってきてきますよ。この方も恐らく、やはり負の部分が常々頭に浮かんでくるんでしょう。これは、誰しも一緒なんですよ。
だからこそ、これからの人生はそういうつらいことではなくて、どうしたら楽しく過ごしていけるかにエネルギーを注ぎましょう。
大竹:最近は成果主義の世の中ですから、組織への貢献度合いにポストが見合わないと、すぐにポストを剥奪(はくだつ)されるようになっています。何となく管理職になっていくという一昔前の日本企業のような状況ではなくなっています。
上田:日本の企業も、だいぶ欧米式になってきましたよね。会社に入って与えられたミッションをこなして、昇進していくということよりも、最初から自分の能力を売るという感覚が強くなってきました。
欧米では、働く側はみんな割り切っているから、出世する、しないじゃなくて、自分の能力がその企業にとってどれだけの価値があるか、ということでポストが決まって、報酬も決まる。日本もだんだんそうなってきているということですね。
そうなると、いろんな働き方をする人が出てきます。これまで通り出世を目指す人もいれば、そうでない人もいる。ただ、いずれにしても大切なのは、人生トータルで考えることです。社長になってもひどい目に遭って、解任されたり、あるいは自分から辞めざるを得なかったり。人生をトータルで考えれば、何がいいかは本当に最後まで分かりませんよ。
だからこそ、あなたも一度、客観的に自分自身と世間を見直してみてください。きっと、過去をリカバリーできると思いますよ。
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*この連載は毎週水曜日掲載です
本連載「お悩み相談~上田準二の“元気”のレシピ」が本になりました! 反響の大きかった話を中心に、上田さんのアドバイスをぎゅぎゅっと編集して詰め込みました。その数、全35個。どれも読むだけで元気になれるアドバイスばかり。上田さんの“愛”がたっぷりのお悩み相談本となっています。ぜひお手に取ってみてください。
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<第1章 人間関係に効く>
Q 上司の顔色ばかり見る組織に辟易/Q 上司が危機感を持っていない/Q 理不尽な部長の罵倒に耐えられない、など9個
<第2章 自分に効く>
Q 成長できる「前の職場」に戻りたい/Q もうここで「昇格」は終わり?/Q いいかげん、ぎりぎり癖を直したい、など15個
<第3章 恋愛・生き方に効く>
Q 安定した仕事を持つ男性の方がいい?/Q 出産のタイムリミットが近づいて/Q 年収も家柄も良いのに婚活失敗、など11個
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