上田準二さんの「お悩み相談」。今回は、ジョブローテーションのある会社なのに入社から7年間、異動がないことを悩む28歳女性から。後輩がどんどんジョブローテーションしていく中で、幅広い経験が積めていないと気持ちが焦ります。上田さんは、「経験は広げるだけではなく深めることも大切」と助言します。
悩み: ジョブローテーションがある会社なのに、入社から7年間、同じ部署で異動がありません。上司に異動希望を出しても実現せず、幅広い経験が積めないことに焦りを感じます。何かいいアクションはないでしょうか。
ジョブローテーションのある会社で総合職として働いています。入社してから7年が経過しましたが、いまだ異動の兆しがありません。入社3年目から毎年、異動希望を提出しているのですが、チャンスが回ってきません。
既に年下の世代も異動し始めており、私の下にも複数後輩がおり、気持ちが焦ります。私がこれまで担当していた業務を後輩にどんどん引き継ぐ一方、私は自分で新たな仕事を考え出さなければなりません。しかし、特殊な業界のため、営業先の新規開拓など、外向きの仕事の機会は限定されています。それなら、新しい環境に身を投じたいとも考えています。
いずれにせよ、ジョブローテーションを経験するのであれば少しでも早く異動し、異なる人間関係や業務に触れて、俯瞰(ふかん)的な視野を養いたいと強く感じます。
このような私の気持ちを上長に伝えても、なかなかうまくいかず、時間だけが過ぎてしまっております。人事に直接伝えるのは気が進まず、最初の配属から一部署しか経験していないのに転職するのも、少しもったいない気もしています。
何か自分でとれるいいアクションはないでしょうか。
(28歳 女性 会社員)
上田準二:僕はファミリーマートの社長になって間もなく、人事改革を実施してジョブローテーションの原則をつくりました。同じ部署で、同じ仕事を続けるのは最長で5年までと決めたことがあるんです。
大竹剛(日経ビジネス編集):そうだったんですね。どんな内容だったのですか。
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングス(現ファミリーマート)の代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味はマージャン、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。2019年5月末に相談役を退任。(写真:的野弘路)
上田:5年を過ぎたら新たな部署で、新たな業務を経験してもらうという、ジョブローテーション原則です。いろんな業務を経験することで、キャリアのステップアップにつなげてもらおうという狙いですね。
ただし、5年以内に全員を人事異動させるなんていうのは、基本的に難しかったね。それぞれの部署の事情や対象となる社員の家庭環境の問題もあるし、余人をもって代えがたいというケースだってある。
だから、原則としてはジョブローテーションでも、どうしても例外は出てきてしまうものなんです。一部の人はある程度、長期にその部署にいてもらわないと、ほかの人のローテーションが回らなくなるということがある。逆に言えば、その部署に長くいることになった人は、その部署にとって欠くことのできない人材だともいえるよね。
この人も、後輩がどんどんジョブローテーションされていく中で、自分は同じ部署にずっと残っていると焦っているようだけど、あなたがいなければこの部署は回らないんです。あなたまでいなくなっちゃうと、これまでこの部署が蓄積してきた知見や経験を伝える人がいなくなってしまうというわけだ。
大竹:でも、もう7年も同じ部署にいるのは、長くないでしょうか。
経験は、広げるだけではなく深めることも大切
上田:ジョブローテーションを前提にしている会社だとすると、7年ずっと同じ部署という状況は確かに長いね。上司に、異動のお願いをしているのに、なかなか実現しないということは、あなたはこの部署に相当必要とされているということだと思うよ。
大竹:7年間同じ部署にいることで、早く異動しないと人脈が広がらないし経験も積めないと焦っているわけですが、もう少し長い目で見れば、異なる人間関係や俯瞰的な視野はこれからいくらでも積めるようにも思えるのですが。
上田:まだ28歳でしょう。焦る必要はないですよ。あなたは同じ部署で、キャリア、経験を広げているというより、深めていると考えてください。横に広げるのもいいけれど、深めるのだって大切な経験ですよ。
中には、頻繁にローテーションの対象になって、1つの業務を全く深めることができない人だっているわけですから。逆に、1つのことを深めているあなたは、ジョブローテーションが盛んな会社では貴重な存在ともいえますよ。
大竹:自分が担当してきた業務を後輩に引き継ぐ一方、自分の仕事は自分でつくり出さなければいけないとも嘆いています。
上田:上司や会社はあなたのことを見ていると思いますよ。あなたが後輩にどんどん仕事を覚えさせて引き継いでいっている姿をね。頼もしいと思われているのではないですか。あなたがこれまで培ってきた知見を後輩にしっかりと伝えていると分かれば、おのずと、あなたにそろそろほかの部署に異動してもらおうかという話も出てくるはずです。
異動できないことを悩みすぎて、仕事に対するモチベーションが下がってしまうことのないようにね。今は、次の部署に異動するための準備段階だと考えましょう。
あなた自身が気持ちよく異動できるように、しっかりと後輩に仕事を覚えてもらいましょう。そのような機会もないままジョブローテーションをするより、後輩を育てる経験は、この先の仕事にもきっと生きるはずですから。
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