上田準二さんの「お悩み相談」。 今回は、「自分にはやりたいことがない」と悩む47歳男性から。「will(意志)」がないからやる気も出ず、上司からは無能扱い、部下からは老害扱いされていると肩を落とします。上田さんは「40代にもなれば、必要なのはwillよりも『shall』だ」と強調します。その理由は?
悩み:これまで自分自身の「will(意志)」をしっかり持たないまま、組織や家族の中での役割を前提に生きてきました。「これをやりたい」という思いがないまま様々な部署を経験し、今は子会社で働いています。上司からは無能扱い、部下からは老害扱いされているのですが、そもそも私自身に「will」がないことが原因ではないかと悩んでいます。この先、どのような一歩を踏み出したらいいのでしょうか。
はじめまして。約2年前にこの連載を知り、以降毎週欠かさず拝読しております。それぞれの相談内容への心温まるアドバイスに膝を打ち、私自身も励まされてきました。ただ、どうにも心が定まらず、また、相談できる方も見つけられなかったこともあり、今回、投稿させていただきました。
ご相談したいことは、端的に申し上げると「やる気が出ない」「やりたいことが見つからない」ことです。性格的に、公私を問わず「~しなければならない」「~であるべきだ」といった思考が強く、自分の意志を考えることもなく、組織や家族の中での役割を前提に生きてきました。「良い会社に入るために、良い学校を出る」。あるいは「長男だから~しないとならない」といったような……。
部活も顧問に誘われたから陸上部に入り、高校、大学でたまたま友人と一緒だったので大学卒業まで続けました。就職は最初に内定をいただいた企業に入り、その後自分の意志での異動はなく、本社企画を皮切りに地域本部、営業、事務管理、労組専従といった部門の横断にとどまらず、会社合併を2度経験し、数年単位で転職といっていいほどの環境変化に対応してきたつもりです。
これまでそういう生き方に疑問を抱かなかったのですが、3年ほど前にうつ状態で数カ月会社を休んだことをきっかけに、冒頭の問題意識を持つようになりました。小さい問題意識としは、「昼食に何を食べたいか」といったものから、大きな問題意識では「今の部署で何を頑張ればよいのか」まで多岐にわたります。ようするに「will(意志)」がないからやる気も出ない、やる気力がないからwillもないというような気分です。
やはり自分の中に核となるスキルがないからでしょうか。職場復帰後も、また休んだらどうしようと不安で、休む要因となった長時間残業や自分の身の丈に合わない業務を恐れるようになりました。
今は、システム子会社に出向しており、この分野も約10年たちますが、やはり若い時に基礎ができてないからか勉強しても深い所まで到達できず、ベテランからは無能扱いされ、若手からは老害扱いされて、管理職ではあるものの意思決定は上司や部下を見ながらこわごわといった感じです。
唯一の趣味ともいえるマラソンやドライブも、家族の顔色をうかがいながらのため、思う存分というわけにもいきません。
とりとめもなく長文を連ねてしまいました。家族ともカウンセラーとも異なるお立場の上田さんから、客観的にどう見えるか、どのような一歩が有効なのか、ご意見をうかがえたら非常にうれしいです。よろしくお願いします。
(47歳 男性 会社員)
上田準二:この人はね、やる気が出ない、やりたいことが見つからない、という悩みを抱えているようだけれど、この方が今までやってきたことは、ほかの人から見たら、やりたくてもできないようなことがたくさんある。意識せずに、これだけたくさんのことをやってきたということに、もっと自信を持ったほうがいいね。
営業やコーポレートスタッフ、それから組合の専従。企業合併を2回も経験している。最初のきっかけが自らの意志だったかどうかはともかく、ものすごく行動をしているし、いろいろな経験をしているんですよ。しかも、事業会社に出向ということですから、おそらく大手企業で働いておられるんでしょう。
大竹:そうですね。従業員数は5000人以上ですから、間違いなく大企業です(編集部注:お悩み相談を受け付ける際のアンケートで従業員数もおうかがいしています>>お悩みを投稿する)。
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングス(現ファミリーマート)の代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味はマージャン、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。2019年5月末に相談役を退任。(写真:的野弘路)
上田:この方は意識していないかもしれませんが、大手企業でサラリーマンとして働くということは、多くの人にとってはやりたくてもできないことを経験する機会に恵まれているということです。ご自身では気付いていないかもしれませんが、「何かをしなければならない」などと考えなくても、既に得難い経験をたくさんしてきたと考えてください。
「何々しなければならない」とか「何々すべきだ」なんて、考えなくても大丈夫です。そんなことを考え始めたら、僕だってうつ状態になっていたかもしれないよ。そんなことを考えずに、目の前の仕事に全力を注いできたからね。
今47歳。その歳になって、自分は何をやるべきかって初めて悩み始めたと言うけれど、「何をいまさらお悩みなんですか」と僕は聞きたいね。あなたは、やるべきことを考える前にやってきたんです。いまさらそんなことを大上段に悩む必要なんてありません。
大竹:出向先では部下からは老害扱い、上司からは無能扱いをされていると言います。こういう環境も、「俺って……」と落ち込んでしまう要因なのではないでしょうか。
上田:ベテランから無能扱いされていると言いますが、これもちょっと見方を間違っているのではないかな。そう思う必要は全くありません。
「やりたいこと」があるだけでは仕事は楽しくない
今までのキャリアを見れば分かるでしょう。この方は、システム関連の仕事を専門としてやってきたわけではありません。むしろ、様々な部署で経験を積んできている。きっと、この子会社では若手を大所高所から管理・監督することを期待されているのではないですか。あなたのことを無能扱いするベテランは、この分野を専門として働いてきた方でしょう。その人から見れば、システムに関して「無能」と言われても仕方がない。言われるのも1つの仕事だ、くらいに構えておけばいいんです。
無能扱いされたり、老害扱いされたりしているとのことですが、あなたがそう思っているだけで、直接、そう言われたわけではないのでは? 仮に周りがそういうふうに見ていようが、あなたが気にすることではありません。あなたはこれまで、流れの中でキャリアを積んできて、今、また別のキャリアを積む段階に来たというだけです。
それでも、無能とか老害とか思われていると思うのであれば、そう思われないように行動しましょう。つまり、勉強するしかありません。これこそ、あなたが言っている、「しなければならない」「こうあるべきだ」ということですよ。今からでも遅くはありません。勉強しましょう。そうすれば、ベテランから無能とは言われなくなります。
若い連中に老害と思われたくないのなら、若い連中が失敗したり悩んでいたりするときに、どうサポートしてあげられるかを考えて、そのやり方を身に付けてみましょう。
そういう行動をすることが、あなたが「これをやるべきだ」「こうあるべきだ」と思う目標になるのではないですか。
大竹:大上段に考えなくともやるべき仕事は目の前にある、というわけですね。
上田:そうですよ。あなたはこれまでも、そうやってキャリアを築いてきたのだから。
大竹:最近、キャリア論などを取材をしていると、「好きなことを仕事にしなければいけない」というムードを感じます。だから、「私はこのままでいいんだっけ」と悩む人って多いと思うんです。
でも、この方は「will」という言葉を使っていますが、「これを成し遂げたい」と強く心に抱いているビジネスパーソンはどれほどいるのでしょうか。この方のように、会社の人事に言われるがままのキャリアを築いてきている人は、決して珍しくはありません。上田さんも以前、そもそも、「こうありたい、なんていうことはあまり考えていなかった」と話していましたよね。
上田:その時々の環境によりますけどね。「must」とか「should」とか、「何々をすべきだ」というようなことは、自分が置かれた立場で給料をもらっている以上、最低限あるべきものです。ただ、それに人生を縛られる必要はありません。
それから「will」。自分はこうありたい、と思う気持ちも大事ですが、ある程度の年齢となり、経験を積んでいくと、「will」よりも「shall」が大切になっていくんだよ。何々しましょう、という「shall」ね。「Shall we dance?」でもなんでもいいけれど、周囲を巻き込んで仕事をしていくには、willだけじゃダメ。僕は40歳にもなれば、大切なのはshallだと思うよ。
大竹:なるほど! この方に必要なのは、「will」よりむしろ「shall」だと。
上田:そう、「will」より「shall」。あなたはこれまで、「must」とか「should」はたくさんやってきた。自分は意識せずとも、そこにはきっと「will」もあったかもしれない。だから、もうそれらで悩まず、これからは「shall」を意識しましょう。
最後に、趣味の話をしているでしょう。マラソンやドライブも、家族に遠慮しながらやっていると。これも足りないのは「shall」の精神じゃないかな。もっとオープンに、堂々と、家族を誘うぐらいの気持ちで趣味もやりましょう。
マラソンもドライブも、すてきじゃないですか。家族だってコロナで家に閉じこもり気味だろうから、「Shall we run?」「Shall we drive?」と誘ってみましょう。仕事も趣味も、「自分はこうしたい」という気持ちがいくら強くても、一人だと楽しくないし、前に進みませんよ。
読者の皆様から、上田さんに聞いてほしいお悩みを募集しています。仕事、家庭、恋愛、趣味など、相談の内容は問いません。ご自由にお寄せください。
>>悩みの投稿<<
*この連載は毎週水曜日掲載です
本連載「お悩み相談~上田準二の“元気”のレシピ」が本になりました! 反響の大きかった話を中心に、上田さんのアドバイスをぎゅぎゅっと編集して詰め込みました。その数、全35個。どれも読むだけで元気になれるアドバイスばかり。上田さんの“愛”がたっぷりのお悩み相談本となっています。ぜひお手に取ってみてください。
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◇概要◇
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<第1章 人間関係に効く>
Q 上司の顔色ばかり見る組織に辟易/Q 上司が危機感を持っていない/Q 理不尽な部長の罵倒に耐えられない、など9個
<第2章 自分に効く>
Q 成長できる「前の職場」に戻りたい/Q もうここで「昇格」は終わり?/Q いいかげん、ぎりぎり癖を直したい、など15個
<第3章 恋愛・生き方に効く>
Q 安定した仕事を持つ男性の方がいい?/Q 出産のタイムリミットが近づいて/Q 年収も家柄も良いのに婚活失敗、など11個
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