上田準二さんの「お悩み相談」。今回は、3代目社長の母親が労務管理を仕切っている会社に転職してきた女性の悩み。この母親の下で総務を担当し、労務管理の改善を提案してもうまくいきません。上田さんは「結果はどうであれ、社長に進言し続けるのがあなたの役目」と助言します。その理由とは。
悩み:社員30人ほどの建設業の会社に転職してきたのですが、3代目社長の母親(70歳)が経理と総務を担っていて、労務管理がずさんです。いろいろと指摘しても私の待遇だけが改善され、他の社員に広がりません。どうしたらいいでしょうか。
土木工事の建設業で社員30人ほどの会社に勤めています。現社長は3代目の46歳。自分の母親(70歳)に経理と総務を任せています。その母親は1日2時間、職場にいるかどうかで、まともな仕事をしているとは言えません。
私は転職してきてこの会社に入り、総務や広報を担当しています。これまでも似たような規模の運送業で、事務で運行管理、労務管理、給与計算を担当してきました。不正を告発した経験もあり、総務に関してもある程度の知識があります。
現職場では、働き方改革が進むこのご時世でも残業時間の管理をまともにしていません。休日出勤でも、賃金は平日と同じ扱いをしており、おかしいと指摘しても理解してもらえません。総務とは名ばかりで、勤怠管理などの弱さを指摘しても、「オカンももう70やで。勘弁してやって」と社長は母親をかばってばかり。社長に意見を言える環境ではあるものの、状況を改善しようとしてくれません。
いろいろ指摘しても、私の待遇だけ改善されて、他の社員には及びません。私の状況だけ改善されてしまうと、居心地も悪いです。どうしたらいいでしょうか。
(45歳、女性、会社員)
上田準二:これは何というか、家内工業的な建設業ですよね。現社長は3代目ということだから、一族でずっと会社をやってきたんでしょう。前の社長は現社長の父親で、母親が今も経理や総務をやっている。
まず、あなたが認識しなくてはいけないのは、そういう家内工業的な会社にお勤めになっているということです。その現実を、まず受け入れてください。そして、家内工業的な建設業だろうから、ほとんどの社員は現場の人間ですよね。そういう中で、あなたはデスクワークや管理、マネジメントを担う人材としてこの会社に採用されているわけです。きっと、周りの人はほとんどが、先代からの家内工業的な会社の雇い人ではないですか。
コンプライアンス(法令順守)とか残業時間管理とかいっても、話す相手は社長しかいないわけです。現場で工事をしている方にそんな話をしても、「そんなことは分からない。社長に話してくれ」となるでしょう。
従って、あなたの役目は、普通の会社、経営が長く続いていく会社になるために、そういうことはちゃんとしましょうと言い続けることです。社長が実行するかどうかは別にして、言い続けるのがあなたの役目なんですよ。
だから、社長が実行しなくても、あなたは腹を立てる必要はありません。言い続けるのが役目で、それが給料の一部になっていると考えるんです。
大竹剛(日経ビジネス編集):なるほど。社長が実行するかどうかはともかく、言い続けることが役目と割り切って考えるんですね。
上田:あなたは、社長に改善を申し出た自分の待遇しか改善されない、ということも悩んでいますが、あなたの待遇だけでも改善されたのは大きな前進と考えてください。そして、そのことを他の社員にも見せてあげる。つまり、声を上げれば変わるんだ、ということを身をもって示すんです。
毎日、毎日、そういうことを積み重ねていくことで、この会社は少しずつ変わっていきますよ。
社長の母親に目くじらを立てても仕方がない
大竹:自分の待遇だけでも変わったのは、大きな一歩だと。
上田:そうです。まず、家内工業的な会社にいるという現実を理解する。そして、日々、社長に進言するという役目を果たすことに、仕事のやりがいを感じることができるか。あなたがこの会社で力を発揮できるかどうかは、そこにかかっています。
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングス(現ファミリーマート)の代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味はマージャン、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。2019年5月末に相談役を退任。(写真:的野弘路)
大竹:社長の70歳の母親が経理や総務をやっているということですが、その方との付き合い方も重要なポイントになりそうです。
上田:母親は恐らく、1日2時間程度、息子の仕事を手伝っているという感覚であって、社長も母親のことを社員とは思っていないと思うよ。母親にお小遣いをあげる手前、ちょっと手伝ってもらっているというくらいの感覚ではないかな。
だから、あなたは母親がまともに仕事をしていないということにイラついてはいけません。そもそも、一般の社員と同等の仕事を母親に期待してはいけないのだから。あくまでも、息子のお手伝いなんです。そう思って見てください。
結局、この社長の母親は先代の社長のときから、今と同じように会社と関わってきたのでしょう。だけど、その母親も70歳になったので、息子がさすがにこのままではいけないだろうと思って、あなたに来てもらったのではないですか。だから、あなたが徐々に、この会社の総務や経理を仕切っていくことになるわけです。
ただ、急にこの母親にこれまでの仕事を全部やめて、というわけにはいきません。それが、家内工業的なこの会社の特徴なのですから。そういう前提を理解してください。
大竹:上田さんのこれまでのお仕事で、こういう取引先は結構多かったのではないですか。
上田:商社にいたときは、大手のメーカーを除いたら取引先の肉の問屋さんはほとんどが中小企業でしたよ。創業家の一族の方々は大なり小なり役職が付いている。
だから僕は冗談で社長に聞くんですよ。「社長、おたくに平社員って何人いるんですか」って。そうすると、4人ぐらいが平社員で、47人ぐらいが全員、役職が付いているようなこともある。ほとんどが親族だから、何らかの役職を名刺に刷るわけ。
だからといって、給料がそんなに高いかというと、そういうわけでもない。専務とか常務とかいっても、それほどでもないんです。
だから、この母親もしっかりとした肩書が付いているかもしれませんが、そんなに給料をもらっているわけではないでしょう。だから、「働かない」とか、そんなに目くじら立てるほどではないと思いますよ。
大竹:なるほど。社長の母親には目くじらを立てず、家内工業的な会社だと理解して、そういう中でも時間をかけて普通の会社にしていくよう、社長に進言し続けることが今回の相談者のお役目だということですね。
上田:そうです。この会社が存続して普通の会社になっていけるかどうかは、あなた次第なのかもしれませんよ。
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