上田準二さんの「お悩み相談」。今回は、評価はされているものの年功序列的な給料などに不満を感じている33歳の男性から。「管理職になりたいわけではない」と言い、よりよい待遇の会社へ2度目の転職を検討しています。上田さんは、「管理職になりたいわけではない」という発言に注意を促します。
悩み:中途採用ながら3年目からチームリーダーを任されています。同世代の中では優秀な方だと自負していますが、中途採用であることや年功序列的な制度などによって、「なぜあの人より給料が安いのか」と不満を感じています。2度目の転職を考えていますが、このまま残るべきか、転職すべきか、アドバイスをください。
いつも、この記事の更新を楽しみにしております。さて、早速ですが私の悩みは、2度目の転職をするかどうかです。
前職は、プラント工事系の施工管理をやっており、1カ月の残業時間が100時間を超えることが普通で、遠方への出張も多く、自分の体と家族のことを思い転職をしました。転職後(現職)はメーカーの技術部門に所属しており、ほぼ残業がないので前職より若干年収が下がった面もありますが、家族が暮らすのには特に不自由ない給料を頂いていますし、仕事内容としても、そこまで負荷があるわけでもありません。自分で言うのはおこがましいかもしれませんが、中途採用ながら3年目からはチームリーダーを任され、この会社の同世代の中では優秀な方だという自負があります。
ただ、中途採用ゆえに給料は若干低めに設定されているのと、仕事の内容や評価よりも年功序列の人事制度となっていることもあり、「自分の方が仕事をこなしているのに、なぜあの人より給料が安いのか?」「今私がこなしている仕事は、もっと職級が上のクラスの人間がやることではないのか?」「何でもそれなりにこなすので、いいように使われているのではないか?」と、考えるように最近なりました。
さらに経費削減のために残業は極力しないようにという通達が出ており、私は何とか月の残業をほぼゼロにしていますが、仕事が遅い人ほど残業をする傾向にあるので、頑張れば頑張るほど給料が下がり、給与格差が広がっているという現状があります。管理職になれば給料が上がりますが、管理職になりたいわけではありません(このままの調子でやっていれば、早い段階で管理職にしてくれるとは言われています)。どちらかというと、管理職になってあれやこれや色々広く浅く見るより、自分の得意分野を突き詰めつつ、ずっと現場に出てやっていきたいと思っています(自分の性格に合っているのではないかと考えています)。
仕事内容的にはそこまで大きい負荷や不満もあるわけではないのですが、現状を打破するには、2度目の転職も視野に入れていいのではないかと考えています。転職先については既に目星を付けています。その会社は、現職より給料が上がりつつ、世界的な社会インフラに関わり仕事の難易度も上がるような会社です。転職(挑戦)すべきか、このまま残るべきかを悩んでいます。今後についてアドバイスをいただければと思います。
(33歳 男性 会社員)
大竹剛(日経ビジネス編集):今回のお悩みの話に入る前に、39歳、男性会社員の読者の方からのお便りを紹介します。
悩み事ではありませんが、この場をお借りしてお礼を申し上げたく(編集のご担当様、無駄な投稿で申し訳ありません)。以前より、面白いコーナーだと思いながら拝読しておりました。今般、体調を崩し、ひと月ほど入院しております。治療法が確立されていない病ですので一生付き合っていくことになり気持ちも沈みがちでしたが、上田さんの前向きなご意見のおかげでくよくよしていても仕方ない、と思うようになりました。また、本人以上に家族(離れて暮らす両親)が深刻な表情をしていますので、少しでも明るく老後を過ごしてもらうために、ご著書を購入し送りつけたところです。お体ご自愛いただき、今後も前向きなお話をたくさん聞かせてください。
上田準二:体調を崩して入院なさっているとのこと、気持ちが沈みがちになるかもしれませんが、この相談コーナーで多少は気分が前向きになれたようで、よかった。
大竹:上田さんの本をご家族にも送ってくださったようです。ありがとうございます。ご両親の気持ちも晴れるといいですね。
上田:悩みは本人だけでなく、その周りの家族や友人にとっても無関係ではないことが多いからね。お役に立てるとうれしいよ。
大竹:悩みの相談だけではなく、お気軽にコメントをお寄せください。記事下のコメント欄に書き込んでくださってもいいですし、悩みの投稿欄から送信してくださっても構いません。どうぞよろしくお願いします。
さて、今回の相談に移りましょう。今回は 33歳の男性会社員からです。一言で言えば、もっと評価されてもいいはずなのに年功序列などに阻まれて待遇に不満ということです。
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングス(現ファミリーマート)の代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味はマージャン、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。2019年5月末に相談役を退任。(写真:的野弘路)
上田:まずこの人は自分自身を正しく評価できていると思いますよ。中途採用ながら入社3年目でチームリーダーになった。仕事ができるというのは、事実なのでしょう。
大竹:そうですね。
上田:でも、給料が若干、前の会社よりも安いことに不満を持っている。だけど、入社3年目でチームリーダーになったということはしっかり評価されているわけだから、役職が上がっていけば当然、転職してきたことによる周囲とのギャップは埋めることができるし、さらにその上に行くはずだと思うけどね。正直、今の時点でそのことに不満を持っても、どうしようもないと思うんです。
自分はたくさん仕事をこなしているのに、なぜあの人より給料が安いか。そんなことは、僕も48年間のサラリーマン人生の中で、平社員のとき、係長のとき、課長のとき、部長のときと、役職が上がっていくたびにそう思っていましたよ。「俺はこの課で一番利益を出しているのに、何で大した利益を出していない係長の方が給料が高いんだ」というわけです。
要するに、1つの組織の中にはプレーヤーとプレーイングマネジャー、それからマネジメント、そしてガバナンスと異なる役割があるのですが、当時はそれを理解していなかったわけです。それぞれの役割を比較しようとしても、どちらがよくやって、どちらがもうかっているというような比較はできないんですよ。それをまず認識しましょう。
「あの人より給料が安い」などと考えても仕方がない
大竹:求められる役割が違うから、比較できない。
上田:役割が違うからね。報酬は、それぞれの役割に対して支払われているので、「俺はあいつより仕事ができるのに」という考えは忘れましょう。従って、あなたも管理職になり、今、専門職でやっている分野から一段上の役割を担うようになると、給料も上がりますよ。
大竹:この方は、管理職になりたいわけではない、と言っていますが……。
上田:だけど、多くの組織ではやはり、「管理職」という役割に対して、より高い報酬がつくものだよ。
悩みの内容を読むと、給料に不満を言いつつ、管理職になりたいわけではないとも言っている。少し、矛盾をしているよね。まず、あなたが本当に望んでいるものは何かを、しっかり考えてみましょう。
家族のことも考えて、大変な残業を強いられるような会社から、今の会社に転職してきたわけですから、もう以前のような働き方に戻ることはあり得ませんよね。今、目星を付けているという2度目の転職先候補の会社でも、そういう働き方に戻ることはないのでしょう。しかも、給料は今の会社よりもよくなることがほぼ決まっていると言っていますよね。しかも、やりがいも今よりもある。
それならば、転職した方がいいですよ。ただし、注意してください。あなたが今の会社で抱えているような不満や悩みが全て、新しい職場で解消されるかというと、そのようなことはおそらくないでしょう。
あなたは昇進よりも現場の仕事がいいと言っていますが、新しい会社で同年代で似たような力量の同僚が、あなたよりも先に課長になったら、あなたは本当に管理職にはならないでいいと言い続けられるでしょうか。誰しも会社からのいい評価を期待するもので、あなたも一段上へステップアップしたいと思うはずです。
自らチャンスを逃すような発言は慎んだ方がいい
大竹:既に転職の気持ちを固めていて、条件もいいのであれば、転職した方がいい。だけど、自分のキャリアについて、一度整理して考えた方が、転職先で似たような悩みや不満を抱えなくてすむということですね。
上田:給料や評価、ステータスなど、次に行く転職先は今の悩みを全部解決しているように見えるものですが、行ったらやはり同じ問題は大なり小なり必ずあるはずですから、それをきっちりと整理できる道で進んでくださいね。
僕も経験あるんですよ、課長になる前、月に100時間くらいも残業していた時期があるんです。
大竹:今では残業規制に引っかかって問題になりますね。
上田:まあ、大昔の話だからいいでしょう。そんな状況から課長になったわけです。そうすると管理職だから残業手当が付かなくなりました。つまり、課長になった途端、大幅に収入が減ってしまった。それまで、残業を含めた収入を計算して生活していたわけだけど、課長になった途端、収入が大幅に減ってみみっちくなっちゃうわけだね。それまでと同じような生活が送れない。
だから、上司に文句を言ったことがあるんです。「課長になるのはありがたいのですが、こんなに給料が減った」とね。すると上司に、「お前、あほと違うか。60歳で定年になるまで、100時間の残業を続けられるわけないだろう。一時的に給料が減るからといって『課長になるのは結構です』なんて言ったら、もう管理職になる機会は回って来ないぞ。生涯年収で見たら大幅に損することになる」と言われたことがある。
だからあなたも、「管理職にならなくてもいい」などと言っていたら損をしますよ。
大竹:そんなことを言っていたら、チャンスは巡ってこなくなる。
上田:そうそう、ポストも回ってこなくなる。
だから、今、言ったようなことをきっちり整理した上で、2度目の転職にチャレンジしてはどうですか。
読者の皆様から、上田さんに聞いてほしいお悩みを募集しています。仕事、家庭、恋愛、趣味など、相談の内容は問いません。ご自由にお寄せください。
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*この連載は毎週水曜日掲載です
本連載「お悩み相談~上田準二の“元気”のレシピ」が本になりました! 反響の大きかった話を中心に、上田さんのアドバイスをぎゅぎゅっと編集して詰め込みました。その数、全35個。どれも読むだけで元気になれるアドバイスばかり。上田さんの“愛”がたっぷりのお悩み相談本となっています。ぜひお手にとってみてください。
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