上田準二さんの「お悩み相談」。今回は、うつになってしまった個人医院を営む夫をサポートし続けてきた女性から。夫のケアにともなう精神的な重圧から抜けだし、自分自身のキャリアを築きたいという思いが強まる半面、夫のことも気掛かりです。上田さんは、「まずは別居を」とアドバイスします。
悩み:15年前に個人医院を開業してからうつ状態が続く夫をずっとサポートしてきましたが、夫のケアはずっと精神的に大きな負担でした。自分自身を押し殺すのはよくないと思い、自分自身のキャリアを形成しようと学び始めました。一方で、これからも夫をしっかりサポートしなければという気持ちもあります。どうしたらいいでしょうか。
夫が個人医院を開業して15年になります。開業当時からストレスによるうつ状態が続き、ずっと心療内科に通院しています。調子のいい時期もありましたが、現在は先行きの不安などから再度悪化し、診療にも影響が出ています。
私は医院には常勤していません。夫は日々の業務で疲れ果てているので、私のワンオペで家事や育児をし、医院の総務や経理業務をこなすのが精一杯でした。何より、依存心の強い夫のメンタルケアをすることが精神的に非常に重く、決して強い人間ではない私にとって大きな負担でした。ここ数年は子どもも成長して時間の余裕もでき、自分を押し殺して不機嫌になるのはよくないと、外へ学びに行っています。
夫は、私も一緒に医院へ出て全面的に夫をサポートすることを望んでいます。しかし、私自身の決心がつきません。一日中愚痴ばかりの夫と顔を突き合わせて平静でいられる自信はなく、何より経営者として考えがあまりにも甘い夫にすっかり嫌気がさしています。
せっかくの学びのチャンスを全うして、自分自身のキャリアを形成したいという思いもありますが、今の立場も夫がうつと闘いながら医院を経営してきてくれたからこそだと思うと、非常に複雑です。甘いのは私の方かもしれません。
今後、私はどのように行動するのがよいのでしょうか。アドバイスいただけると幸いです。
(49歳、女性、主婦)
大竹 剛(日経ビジネス編集):上田さん、今回の相談への返事をお伺いする前に、お礼のコメントが届きましたので紹介します。4月1日に紹介した、宴会のスピーチの最中に「やめろ!」と怒鳴られて、「無礼だ!どうしたらいいか?」というお悩みを相談してくださった方からです。上田さんは、「あなたのスピーチが長いからだよ」とやんわりと諭してくださいました。
関連記事:長いスピーチは嫌われる。「1分240字」で話す極意
その方からの感謝のメッセージです。
早速、「長いスピーチは嫌われる」と題して、私の相談にご回答をいただき、大変ありがとうございました。
なるほど、そうなんだ、と改めて反省しております。友人や家族にこの件を話しても、皆、私の肩を持って、途中で「やめろ!」と言った人を批判する意見ばかりでした。誰一人、「お前は間違っている」と言ってくれる人はいませんでした。
ところが、この記事を読ませていただいて、私のスピーチは自分の一方的な話であって、聞いている人の中には「長い話だ」と思っている人もいるのだということに気が付きました。そこまで気が回らなかったです。聞いてくれている人の気持ちにもならないといけないのですね~。
大変参考になりました。有難うございました。
(75歳、男性、無職)
上田さんの回答が、ドンピシャだったようですね。この方がおっしゃるように、誰も「お前の話、長い」と言ってくれる人が周囲にいなかったようです。
上田準二:この方はこれから、逆にスピーチが上手になると思います。ポイントは、1分240字で話すこと。そして、しっかりと内容を暗記することです。
短く話そうという気持ちが大切で、一番、重要で盛り上がる話をした後に、すぐスピーチが終わる。そんな話し方ができれば、あなたの話はものすごく受けるようになりますよ。
大竹:本当によかったですね。
上田:これからスピーチの達人になることを祈っております。
大竹:それでは、今回のお悩み相談に入りましょう。うつ状態の開業医のご主人を、ずっとサポートしてきたという女性からです。ご主人がうつになったのは、開業した15年前。愚痴の多いご主人を支える精神的な負担に悩んでいます。
まずは別居してお互いを見つめ直そう
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングス(現ファミリーマート)の代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味はマージャン、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。2019年5月末に相談役を退任。(写真:的野弘路)
上田:これは本当に難しい相談だよね。1つ言えることは、このままの生活を続けていたら、夫婦共倒れになるということです。従って一度、奥さんはご主人と別居したらどうでしょうか。
大竹:いったんお互いに距離を置いた方がいいということですか。
上田:そうです。どちらかがアパートでも借りてね。お互いを見つめ直す期間が必要ではないかな。このまま2人でこういう生活や仕事を続けていっていいのかどうか。このままではお互いに疲労してしまう。だから一度別居して、ゆっくり自分自身、並びにパートナーを見つめ直してはどうでしょうか。ご主人は、場合によっては医院を一時休業してもいいのではないかな。閉院ではなく休院ね。同時に、あなた自身もゆっくり、今後のことを落ち着いた心の状態で判断した方がいいと思いますよ。
ご主人が病院を休院するのは困るということであれば、医療事務のできる方を採用してもいいでしょう。3カ月か4カ月の間、休院してみて、今後のことをもう一度考え直してみたらいいと思います。
奥さんはその間に、自分が学びたいことを勉強するためにしっかりと時間を作れるだろうし、ご主人も奥さんがいかに重要な人であったかを再認識して、これまでのご苦労やこれからの人生について、もう少し奥さんの立場にたって考えられるようになると思います。ご主人の精神状態が安定したら、もう一度やり直せばいいと思います。
大竹:開業して15年ということですが、ご主人は開業時のストレスでうつ状態になってしまったようです。それ以来、この状態が続いてきたようで、大変ご苦労をなさっています。
上田:2人とも、正常な心身の状態ではない中で生活を続けていると、お互いがお互いを傷つけてしまう可能性もあるのではないでしょうか。
大竹:上田さんの周囲にも、夫婦の片方がうつになったという話はありますか。
上田:結構、そういう話を聞きますね。その状態でずっと一緒に住んでいて、結局、両方が疲れ切ってしまったケースを聞きます。一方で、一度別居してみたらお互いに心が落ち着いて、今はまた一緒に住んでいるというケースもあります。
大竹:1回離れて暮らした方が、むしろ心の健康を保てることもあるということですね。
上田:そうですね。これは参考になるかどうか分かりませんが、必ずしも片方がうつという状態ではなくても、高齢の夫婦が2人だけで生活している中でストレスがたまって、お互いがお互いを傷つけ合ってしまうという話はよく聞きます。そんなとき、一度別居をすることで夫婦関係が落ち着くケースはよくありますよね。
僕は「離婚しなさい」と言っているんじゃありませんよ。もう15年もこのような状況で苦労してきたのだから、このあたりで1回リセットして、ゆっくり考え直してみる期間があってもいいんじゃないかということです。そうすることで、新たな展開が開ける可能性があります。
同じ状態を続けていても、状況は悪くなることはあっても良くなることはないと思います。奥さんが苦しい精神状態を抱えたままでご主人のことをフルサポートしたら、今度はあなたがうつになってしまうかもしれませんよ。
あなたが自立することが2人の人生の選択肢を増やす
大竹:うつのご主人を心配してフルでサポートしなければという思いがある一方で、ご自身には自分自身のキャリアを築いていきたいという思いもあります。複雑な気持ちを抱えているようです。ご主人の経営が甘いと考える反面、甘いのは自分かもしれないと、自分自身を責めてしまっています。
上田:奥さんはこれまで、ご主人に十分貢献してきているんですよ。ご主人が医院を経営してくれたおかげで自分たちも生活できてきたと感謝していますが、一方でそれを支えてきたのはあなたです。
ただ、それが大きなストレスになってしまっているのなら、この先も同じことを続けていくことがいいとは思えません。
今、あなたは勉強して自分自身のキャリアを築きたいという思いが強くなっていますよね。もし、別居している期間でしっかり勉強して、ご主人の医院の仕事ではなく、別のところで仕事に就く機会を得ることができたら、どうでしょう? あなたが自立できれば、あなただけではなく、ご主人と2人の人生の選択肢が広がると思いませんか? それは、巡り巡ってご主人の精神的な負担を軽減することにもなるのではないでしょうか。
きっと、開業時のストレスには、家族を養わなければならないという思いも要因の1つにあったのではないかな。だとしたら、あなたがご主人の医院とは別の収入源を確保できれば、ご主人も医院の仕事を少し減らしてしっかりと療養することに時間を割くことができるようになるかもしれない。
僕は、このままの状態を続けていくことの方が心配だな。ストレスを感じている奥さんの気持ちは、言葉や態度でご主人に伝わってしまうものです。すると、ご主人の愚痴もひどくなる。お互い、どんどん傷つけ合ってしまいかねないよ。
読者の皆様から、上田さんに聞いてほしいお悩みを募集しています。仕事、家庭、恋愛、趣味など、相談の内容は問いません。ご自由にお寄せください。
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*この連載は毎週水曜日掲載です
本連載「お悩み相談~上田準二の“元気”のレシピ」が本になりました! 反響の大きかった話を中心に、上田さんのアドバイスをぎゅぎゅっと編集して詰め込みました。その数、全35個。どれも読むだけで元気になれるアドバイスばかり。上田さんの“愛”がたっぷりのお悩み相談本となっています。ぜひお手にとってみてください。
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Q 安定した仕事を持つ男性の方がいい?/Q 出産のタイムリミットが近づいて/Q 年収も家柄も良いのに婚活失敗、など11個
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