上田準二さんの「お悩み相談」。今回は、システム化などで業務が減り、暇を持て余している48歳の女性から。暇なのは自分が無能だからではないか、と悩んでいます。上田さんは「暇は自己研さんのチャンスだ」と、「雑肉」事業を拡大させた自らの経験を踏まえてアドバイスします。そもそも、「雑肉」ってなに?
悩み:業務がシステム化されたり、専門部隊に集中化されたりした結果、暇を持て余しています。別の業務を振られることもなく、私は無能なのではないかと悩んでしまいます。社内のことは詳しいですが、社外で通用するスキルはあまりなく、転職も厳しいです。どうしたらいいでしょうか。
いつも上田さんのお悩み相談を拝見し、勉強させていただいております。私は大手企業で一般事務(今はこんな言い方ないのかもしれないですね)としてお勤めさせていただいております。役職は特にありません。同一企業で長く勤めているので社内のことには詳しいですが、社外で通用するスキルはそれほどありません(エクセルなどのスキルはほどほどにありますが)。
私の悩みは仕事があまりないことです。
業務がシステム化されたり、専門の部隊に集中化されたり、こうした方向は会社として正しいと思いますし、時代の流れだと認識しております。しかし、仕事が減ってしまい、月の3分の1はただ会社にいるだけになっています。それはそれで大変ありがたく考えております。
ですが、やることがないのは「おまえは無能だ」と言われているようで、とてもしんどいです。同じ部署には残業が絶えない人もいるので、上司に10年ほど前から業務の分担を変更してもらいたい(業務分担の平準化)とお願いしていますが、「病気や退職以外で業務分担を変更することは人間関係を壊すし、言いづらいしできない」と言われて今に至ります。いろいろなアイデアを提案してみたのですが、誰かが退職するまで変えないとのことでした。
年齢的に転職も厳しいのですが、今後私はどのようなモチベーションで仕事をすればいいのか、何かヒントをいただければ幸甚です。ちなみに副業は禁止、上司は地域採用なので異動はなく、専門部隊への異動は物理的にできない地域です。
何かやりたい!こともない私です。
(48歳、女性、正社員)
上田準二:上司は地域採用なので異動はなく……。
大竹剛(日経ビジネス編集):この方は5000人以上の大企業(編集部注:お悩みを投稿いただく際に、お勤めの会社の従業員数を聞いています)に勤めているとのことで、恐らく大企業の地方支店といった職場なのかもしれないですね。
上田:「専門部隊への異動は物理的にできない地域」といっているけど、この方も地域限定社員のような形で採用されているのかな。そうなると、そういう制約はまず、認識しましょうということが1つ。異動が難しいという前提の下で、今は仕事がないわけだよね。暇でしょうがない。そのことを考えると、気持ちが落ち込んでいく。
この状況を続けていると、下手をするとうつ病になってしまうかもしれないよ。だから、そうならないためにも、現状をきっちりと受け止めて、暇な時間帯に何をやるのかを考えた方がいい。
会社から与えられる業務がないのであれば、その時間を自分自身の研さんに使えると、逆にポジティブに捉えないと。「これはありがたいことだ」と捉えて、例えば、いろいろな国家資格の習得にチャレンジするとか。「私はこんなに恵まれた環境にいる」と、自分が今、置かれている立場をチャンスと考えましょう。
「暇」はチャンスだ
上田:自分自身が無能だなんて、そんなことを考えるのは全く無意味ですよ。IT関連の資格とか、行政書士とか、不動産鑑定士とか、いっぱい資格はありますよ。そういった資格を取ることを考えるなどして、自己研さんの時間が与えられていると考えましょう。
大竹:業務の時間を自己研さんの勉強に充てるということは、一応、上司に言った方がいいのでしょうか。「仕事がないので、仕事に役立ちそうなこんな資格を取ろうと思うので、勉強してもいいでしょうか」みたいに。
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングス(現ファミリーマート)の代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味はマージャン、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。2019年5月末に相談役を退任。(写真:的野弘路)
上田:「自分が与えられた業務をこなすだけでは時間が余りますので、空いた時間でこういうようなことを私はやってみたいと思います」と、まず上司にも言った方がいいでしょう。この人と似たようなことあったね。
大竹:ありました。2年ほど前だったでしょうか。(参照:女性課長、49歳で社内失業。暇なのはご褒美?)
上田:いずれにしても、堂々と上司にも言ってやった方がいいでしょう。そうこうしているうちに、新しい資格やスキルを持てば、新しい仕事をやってほしいという話があるかもしれない。長く勤めていて社内のことはよく分かっているけど、社外で通用するスキルがそれほどないというのは、多くの人が抱えている悩みかもしれないな。
普通は仕事が忙し過ぎて勉強する時間がないという人が多いんだと思う。残業ばかりしているからね。だから、むしろあなたはチャンスですよ。時間があるんだから。社外でも通用するスキルを身に付けることを、これを機会に考えてみてください。あなたはまだ48歳。これからだよ。自分は無能だなんて考えても、一切、いいことなんてないよ。だから頑張りましょう。
大竹:残業で忙しくて、本も読む時間すらないという状況より、ずっといいですよね。
上田:残業が絶えない人と比べたら、何ていいチャンスなんだ、ありがたい、と考えよう。
大竹:ちなみに、上田さんは暇な時期はありましたか?
「雑肉」のビジネスを広げつつ「ガリ勉」もした
上田:そうだね。長い間暇だということはなかったけど、自分に与えられた職務が小さくて、どうしても嫌だったことはあるね。
大竹:与えられた仕事がすぐに終わってしまう、とか?
上田:すぐ終わってしまう、ということではなくて、やったところで大きな成果が期待できないというような状況だった。僕は商社で畜産の部門にいたのだけど、その部門では牛、豚、鶏がメインですよね。大竹さんは、その他の肉って何か分かる?
大竹:ラムとか、マトンとか。あ、どっちも羊ですね。
上田:羊の他にもいろいろあるでしょう。馬とか、ウサギとか。今ではウサギはほとんど輸入していないと思うけど。
大竹:かつては結構、流通していたのですか。
上田:そうだよ。一番多かった頃は年間3万トンほども日本に入ってきていましたからね。多かったのは中国から。かつては、ソーセージなどで牛肉や豚肉のミンチに混ぜるつなぎ材としてとして使われていたことがあった。だけど、それはずっと昔の話。今では使われなくなっているよ。
僕は、メインの牛、豚、鶏ではなくて、そんな「その他」の肉を担当していた。「雑肉」ともいうんだけどね。牛、豚、鶏に比べたら流通量が少ないから、与えられた業務だけをやっていたら時間が余ってしかたがない。だから、自分で目標を立てようと思って、雑肉の分野で国内シェアで3割以上を取ろうと決めたんですよ。
大竹:当時、上田さんが担当するまで、何割のシェアを持っていたんですか。
上田:だいたい、3%か4%ぐらいだった。それを10倍にするぞと。国内で3割の販売シェアを持ったら、相場をつくる業界のリーダーになれるわけです。そうすると、相場が下げているときも上げているときも、一番早く手を打てるから、どちらの場合ももうけることができる。当時は今みたいに、輸入ポークが莫大に入ってきている時代ではなかったけど、それでも豚肉は大きな商材だった。でも、その豚肉を利益面で雑肉が一時期、上回ったんです。
大竹:おお、すごいですね。豚肉より、羊、ウサギ、馬がもうかった。
上田:ええ。現状維持で仕事をしていたら暇でしょうがないから、目標を立てたんです。当時、東京の畜産部の営業範囲は首都圏、関東が中心だったけど、そこをやっていてもたかが知れているから、北海道から九州まで、全国を回ったんです。自分で仕事をつくっていった。それでも、やはり当初は暇だったけど(笑)。
だから、営業で全国を回る以外に、いろいろと勉強できた。マーケットの勉強、海外の供給基地の勉強、それから、会社が提供している研修のテキストもいろいろ読んだ。
大竹:上田さんが研修テキストで勉強? イメージに合わない(笑)。
上田:やりましたよ。周りから「上田君はガリ勉だ」なんてからかわれたけどね。
それまではずっと、会社の何とか研修なんてものは、真面目に対応してこなかったですよ。ただ、暇なときは、そういうものに取り組むいいチャンスだと思ってね。豚などメインの肉の担当は忙しくて、そんなことを勉強している余裕はなかったと思うけど、そういう忙しい同僚を尻目にガリ勉をした時期も、実はあった(笑)。
僕は自分で仕事の目標を立てられる立場にいたから、この方の状況とは少し違うけれど、時間があるときはこれまでできなかったことにチャレンジするいい機会になるということを伝えたいね。だから、資格でも何でもいいんだけど、ただ座って毎日を過ごすのではなくて、何か、新しいことにチャレンジしてみてください。
大竹: 48歳で転職は厳しいと考えているようですが、自分で勉強して社内でもっと使われる、生かされる人材になることはできる?
上田:まず転職しようということではなくて、暇な時間をどう使うかを、まずはポジティブに考えてみてください。
大竹:今日は上田さんの勉強家の一面も知ることができました。
読者の皆様から、上田さんに聞いてほしいお悩みを募集しています。仕事、家庭、恋愛、趣味など、相談の内容は問いません。ご自由にお寄せください。
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*この連載は毎週水曜日掲載です
本連載「お悩み相談~上田準二の“元気”のレシピ」が本になりました! 反響の大きかった話を中心に、上田さんのアドバイスをぎゅぎゅっと編集して詰め込みました。その数、全35個。どれも読むだけで元気になれるアドバイスばかり。上田さんの“愛”がたっぷりのお悩み相談本となっています。ぜひお手にとってみてください。
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