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上田準二さんの「お悩み相談」。今回は、社長の経営スタイルについていけないと悩む45歳の女性。前に勤めていた会社が廃業して転職してきて10年。恩を返そうとこれまで頑張ってきたという相談者に、上田さんは「もう十分、恩は返した」と自分の信じる道を歩むようにアドバイスします。

悩み:人を育てようとしない社長の経営方針に付いていけません。前の社長に拾ってもらって10年。この会社に恩を返そうと頑張ってきましたが、この先どうしたらいいでしょうか。

30人程度の投資会社でファンド運用の仕事をしております。文鎮型組織で、直属の上司は社長です。転職で入社して10年たち、現在は執行役員の肩書をもらっています。この10年で200億円近い利益を出し、会社にも数十億円の収入をもたらしています。現在社内のメンバーでは社長も抜いてトップの成績です。

悩みは、社長のことを尊敬できず、今後も支えていくのがつらいことです。現在の社長は就任して2年目、個人主義で、若手を採用しても何も指導せず放置して、勝手に育つか耐えきれず辞めるか、それを待つというスタンスです。

私は以前勤めていた同業の会社が廃業したときに、前の社長に声をかけてもらって転職してきました。前職でかなりイロハをたたき込まれたことが土台となって今があると思っており、基本的なことくらいは指導すべきだと考えています。実際、入社して放置されている若手がグレーな人たちから私的な会合に勧誘されていたにもかかわらず、それを会社としては全く気づかずに、現場でベテランが気づいて止めるということもありました。若手が不憫(ふびん)に思えて、私の仕事の範疇(はんちゅう)ではありませんが、若手を連れ回して仕事を見せています。

また、社長は、デキる人だけ残ればいいと言いますが、デキる人は転職しやすく、抜ければその人のノウハウや経験が社内に残りません。実際、私を含むベテランの何人かには、同業他社からお声が頻繁にかかっています。現在の会社の給料は、同業他社と比べて“並やや下”くらいなので、提示される金額にクラクラすることもあります。私は自分のファンドでまだ軌道に乗っていないものが1つあるのと、前の会社が廃業して路頭に迷いかけたタイミングでこの会社に拾ってもらったので、恩を返さねばと踏ん張っています。

しかし、転職してしまう人もおり、彼らの経験やノウハウが社内に残らないのがもったいないと思ってしまいます。それを社長に何度も訴えるのですが、「あなたがいるから大丈夫だ」などとはぐらかされます。経営者たるもの、組織を強くすることを考えるべきではないでしょうか。このままでは何もない空っぽの会社になりかねません。

社長は、株主やファンドのお客様には数字しか見えないので、数字さえ出ていればいいと考えているようです。しかし、その数字だって個人頼みでは限界があると思います。社長なのになぜ組織のことを考えられないのか。この人が社長で大丈夫なのか、この人についていって大丈夫なのか、もっと尊敬できる経営者の下で働きたい、という気持ちが日に日に沸き上がって、抑えるのが大変です。

(45歳、女性、正社員)

上田準二:上田準二:人が育たない、人が辞めていくという会社の中で、社長に「あなたがいれば大丈夫だ」と言われているということは、この方は相当な能力があるようだね。

大竹剛(日経ビジネス編集部):そうですね。だから社長は彼女に会社の運営そのものを任せきっている感じがします。