上田準二さんの「お悩み相談」。今回は県の外郭団体に民間から役員として出向している58歳男性から。県から天下りの社長に事業について様々な提言をしても聞き入れてもらえず、閉鎖的な経営に悩んでいます。上田さんは、「結果は気にせず、割り切って仕事をしよう」とアドバイス。そのワケは?
悩み:県の外郭団体の会社に民間から出向しています。県から天下りの社長が事業に関して消極的で、事業拡大などを提言しても何も聞き入れられません。どうしたらよいでしょうか。
現在、大手の民間会社から出向して、とある会社で常務取締役をしております。出向中の会社は県職員のOBの天下り先となっており、この春から、県職員時代に課長補佐(一般職)だった方が社長に就任しています。
私はこれまで3社ほど出向経験があり、出向先では部長をしてきましたので、一応、会社の経営や組織運営に関してある程度の経験があり、また精通もしていると思います。私は、今の会社で事業規模の拡大や地域振興策の提言をさせていただいておりますが、社長になかなかご理解をいただけません。
地域振興は地方創生の一環としても、労働人口の減少や人材採用に対応する上でも必要だと思うのですが、社長からの返答は閉鎖的なものが散見されます。県の部長とも話をしますが、今の社長のポジションはあくまで「充て職」であるとのことで、積極的な対応をしていただけません。
個人的には、この会社は今後発展していかなければならない会社と考えており、社長としての立場で大局的に判断していただきたいと感じております。社長にどのようなアプローチをすれば、閉鎖的な考え方ではなく、開放的な会社社長としての見方、考え方をしていただけるようになるのか、悩んでおります。
忖度(そんたく)も必要と考えております。何卒、ご教示いただきますようお願い申し上げます。
(58歳、男性、会社役員)
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングス(現ファミリーマート)の代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。2019年5月末に相談役を退任。(写真:的野弘路)
上田準二:一般的に言って、国や県、あるいは、その他自治体の外郭団体というのは、大なり小なり、このような状況であると思いますよ。本来は事業をやらなければいけないし、地域振興などの役割も果たさなければならなくても、お役人さんが天下りで社長になっている場合、自分でリスクを取ったり新しいことを始めたりすることには消極的なものだよ。出身元の組織の政策の通りに進めればいいと。それが「充て職」ということでしょう。何もしないのが一番安全だという考え方になってしまう。
大竹 剛(日経ビジネス): リスクを取りたがらない。
上田:だいたいが、任期中はそこで大過なく過ごせればいいという発想になってしまう。もう、それは、あなたの会社だけではなく、歴史を振り返っても多かれ少なかれ、公的機関の外郭団体はそうでしょうし、社長が天下りしてくる大企業の子会社だってそのようなものでしょう。
あなたは民間企業から半官半民のような会社に出向して、新機軸を打ち出して事業規模を拡大したいと思っても、社長自身は全くそういうタイプではなかった。ただ、社長室に入っているだけの人だった。もしかしたら、出社も週に数回だけといった感じかもしれない。でも、もうそれは、そういうものだと理解し、受け入れるしかありません。この社長は、すぐには変わりませんよ。
さて、そのような状況であなたはどうしたらいいか。常務取締役として民間から出向してきたという立場で、何をしたらよいのか。この天下りの社長はそういうものだと割り切った上で、どこまでやるか。それを考えてみましょう。
結果を気にせず、仕事だと割り切ることも大切だ
大竹:まずは、社長がすぐに開放的となり、積極的にリスクを取るような経営に転じることはないと諦めるということですね。そうした場合、もはや、やるべき仕事はなくなってしまうようにも思いますが。
上田:いや、ありますよ、仕事は。それは、繰り返し、繰り返し、提言をし続けることです。
大竹:でも、提言をしても社長が変わることはないんですよね。
上田:すぐにはね。時間をかけたとしても、変わることはないかもしれない。でも、提言し続けるのです。それがあなたの、仕事だから。
まず、繰り返し提言をするということがあなたの仕事だということを、自分の心の中でしっかりと決めてください。予算があっても、その予算をどのように使うかを決めるのも、きっと、この社長ではなくて県なのでしょう。だから、県の部長にも月に1~2度は面談して、業務報告のような形で提言し続ける。
そうすると、この県の部長からも社長に対して、「あなたのところの常務からこういうような提言があったのだが、一度、会社で検討してみたらどうか」というような提案がされるかもしれません。そうなったら、少しは提言した甲斐もあったというものでしょう。
とにかく、あなたが動かなければ何も変わりません。動いても変わらないかもしれませんが、動かなければその可能性すらなくなってしまう。
大竹:行動しなければ、変わる望みすら生まれないということですね。
上田:すぐには理解されなかったとしても、それで終わりにするのではなくて、何度も何度も提言するんです。そうすれば理解が深まってくる。そう信じて、今の業務をポジティブに進めましょう。
大竹:何度も提言しても聞き入れてもらえないということが続くと、心が折れてしまいませんか。無視され続けるのはつらすぎます。それでも提言し続けるには、相当な気力が必要です。
上田:それが仕事だと思えばいいんですよ。
大竹:それが仕事だと……。
上田:理解してもらえなくても、提言することで私は給料をもらっているんだと。それが、民間企業から役員として出向してきた自分のミッションだとね。
理解されないと言うけれども、へこたれる必要はないんです。相手が理解しようが、しまいが、提言するのがあなたのミッション、仕事なのだから。
大竹:結果は関係ないということですか?
上田:結果は関係ないと割り切ることです。
大竹:結果を考えると、うまくいかないとがっくりきてしまうから。
上田:そう。だから、「提言をする」ということだけを考えるんです。結果は二の次。万が一、聞き入れられればラッキーだ、くらいに考えることです。
先ほど言ったように、天下りの社長には多かれ少なかれ、変な動きをせずに大過なく過ごそうという気持ちがあるものです。社長の考え、行動の根底に、そういう気持ちがあるものだと理解することです。もう、これは仕方がないことなんだと。
その上で、あなたは何をやるのか。提言し続けることです。結果は関係ないと割り切りましょう。そうすることで、へこたれずに提言し続けることができるようになりますよ。
出向元に戻ることができるかどうか
大竹:この相談をしてくれた方は今、58歳だそうです。出向元にいずれ戻るということはあるのでしょうか。
上田:どうだろうね。一般的には、この年齢だと出向元に戻るのはなかなか難しいかもしれないね。
大竹:微妙なラインですか。
上田:従って、まだ戻れる可能性があるのであれば、自分の出向元に「やるだけのことをやったけれども、やはりこういう体質の企業は私たちの力では変えられません」と報告してください。あなたがどれほど繰り返し提言を続けたのか、その事実をしっかりと示せば、出向元の会社もこの会社から引き揚げることを決断するかもしれません。
一方で、もし定年までこの出向先の会社にいるのであれば、先ほど言ったように割り切って仕事をするしかありません。
大竹:いずれにしても、割り切って提言を続けるということですね。
上田:そうです。その結果、社長が前向きな行動をとろうが、とるまいが、あなたは悩む必要は全くありません。
大竹:それが仕事なのだから。
上田:そういうことです。
読者の皆様から、上田さんに聞いてほしいお悩みを募集しています。仕事、家庭、恋愛、趣味など、相談の内容は問いません。ご自由にお寄せください。
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*この連載は毎週水曜日掲載です
本連載「お悩み相談~上田準二の“元気”のレシピ」が本になりました! 反響の大きかった話を中心に、上田さんのアドバイスをぎゅぎゅっと編集して詰め込みました。その数、全35個。どれも読むだけで元気になれるアドバイスばかり。上田さんの“愛”がたっぷりのお悩み相談本となっています。ぜひお手にとってみてください。
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