上田準二さんの「お悩み相談」。今回は現場を離れて約10年、サポート業務に従事してきた50代半ばの男性の悩み。事業環境が変化し、自分の助言が煙たがられる状況に、やる気を失いつつあります。上田さんは「50代の『うるさ型』社員は組織にとって必要だ」と、ポジティブになろうと呼びかけます。
悩み:最前線の開発現場を離れ、約10年がたちます。これまで、現場をサポートしようと頑張ってきましたが、この10年で事業環境が大きく変わり、現場に助言をしても「じゃまばかりして、うるさい」と煙たがられます。私を追い出した現場を助けることに、今は疑問を感じます。どうしたらいいでしょうか。
一部上場企業に在籍し、30年以上ソフトウエアエンジニアとして働いています。約10年前に開発部門から保守部門に配置換えになり、最前線で開発に従事することはなくなりました。いわゆる「黒子」的な立ち位置です。それでも、最初のうちは頑張って前線を支えようと思って奮闘してきましたが、ここ10年で環境は激変してしまいました。
自分で開発経験を踏んだことがない中堅が管理職に昇進し、実際の開発業務は全て社外・海外にアウトソーシングするのが常識になりました。発注元の開発部門では、納品された成果物を正しく評価することすらできなくなってしまいました。
その結果、当然手戻りが多発し、納期通りに仕上がる製品がなくなってしまいました。最初のうちは古参の我々がサポートと品質確保に当たってきましたが、「納期を遅らせる元凶」「じゃまばかりして、うるさい」と言われるようになり、納期優先主義に陥っています。
私は保守部門に異動しても、常に最先端技術を習得し続けて、一線に復帰できるスキルを養ってきましたが、いざ「開発部門に戻りたいか?」と問われたときに、素直に「はい、喜んで」と言えない自分に気づきました。定年前でもあるし、自分を追い出した部門を助けることに非常に疑問を感じたからです。
再雇用も打診されていますが、衰退していく部署を見ているのが正直つらいです。もう、定年後の自分の違う職場での人生を考えて、現在の職場を再生することなど、考えない方が良いのでしょうか。
(56歳 男性 会社員)
大竹剛(日経ビジネス):だいたい40代から50歳前後になると前線から外されたり、役職を外されたりして黒子に回るというケースが増えていきます。昇進の階段を上っていく人は別ですが、それ以外の人はその頃からモチベーションが下がるということがよくあります。
この方は、前線の開発現場を外されても自分でスキルを磨きながら前線をサポートし続けようと頑張ってきたけれども、最近その気持ちが揺らいでしまっているわけですね。良かれと思ってサポートしても、じゃまばかりする「うるさ型」と思われるというのでは、その気持ちも分かります。
上田さん、どうしましょう?
上田準二:こういう人は、業種は違ってもどんな会社にもいるよね。誰にでも起こりうることだと思う。
専門職として長年やってきて、それなりにステップアップもして能力を発揮してきた。けれども、ある日、ほかの担当に配置換えになる。配置換えにならなくても、役職定年になるなどして立場が変わる。
この方は56歳ということだから、もう役職定年のタイミングも過ぎていることでしょう。そうすると、会社の中では後輩に対する、いわばアドバイザリースタッフみたいな状態になる。しかも、世の中も会社も、若かった頃とは大きく変わってきている。コストダウンの流れの中でアウトソーシングが当たり前となり、自分が若かった頃の仕事のやり方が通用しない。
自分でこれはこうだ、あれがこうだ、これが違うだとか、これを新しくしてくれだとかいうような部分が、やっぱりもうアウトソーシング任せだからなくなっている。
大竹:求められるスキルが変わってしまったということですね。
上田:そう。必要なスキルが変わっている。この方から見れば、今の開発部門のスタッフは、「これも知らん」「あれも知らん」と頼りなく見えてしまうだろうし、イラつくこともあるかもしれない。だけど、そもそも環境が変わってしまったのだから、今の現場にはそもそも必要がないスキルとも言える。こんな状況は、どの会社でも起こっているんですよ。
最後の「10キロ」を楽しく走ろう
大竹:システム開発の分野に限らず、いろいろな業種、職種でということですね。
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングス(現ファミリーマート)の代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。2019年5月末に相談役を退任。(写真:的野弘路)
上田:そう。だから、あなたの役割というのは、開発部門は自分を追い出したところだからいまさら戻りたくない、ということを思うのではなくて、もう終わったことには執着しない方がいい。もし、開発部門に戻らないか、という話があるのなら、今の現場では学ぶことができないベーシックな部分、アウトソーシングの出し方だとか、出来上がったシステムのチェックの仕方だとか、そういうことをアドバイスしてあげることが、いいシステムを作ることにつながるんだという前向きな気持ちで働くべきです。そうしないと、仕事が楽しくない。
最前線から追い出されて、いまさらあんなところへ戻ってあげる気にはなれないとか、そういうことを考えては自分もつまらないし、会社もあなたに定年後も再雇用で職場に残って仕事をしてほしいと思わなくなるよ。もう少しポジティブに物を考えましょう。
「衰退していく部署を見ているのが正直つらいです」なんて大上段に構える必要はありません。
大竹:この方は、現場の変化を「衰退」と捉えているようですが、むしろ「進化」なのかもしれないですよね。
上田:そう。自分の価値基準ではなくて、全体的な価値判断の中で流れが変わってきているというのを客観的に理解した上で、自分はそれに対してどういう手助けができるのかを考えた方が、今後の仕事であなたにとって楽しい時間をつくれるでしょう。
大竹:そうですね。
上田:なにごとも、ポジティブシンキングですよ。ネガティブに考えると、何をやっても悪く見えるし、楽しくない。
大切なのは、大上段に構えないこと。「現場を再生する」だとか、「衰退していく部署を見ると正直つらい」とか、そういう視点は自分を疲れさせるだけですよ。あんまり大上段に考えずに、今、自分自身が自分のため、会社のために何ができるか、その部分に考えを集中してください。
大竹:この方は、「自分を追い出した部門」という表現も使っています。異動してからの約10年間、今の黒子的な立場に“追いやられた”という処遇に納得できないまま、ずっと働いてきたということかもしれません。
上田:うん。
大竹:最初は前向きに新しいスキルを習得するなど努力してきたけれども、その気持ちが定年を前にして折れかけているようです。
上田:マラソンに例えるなら、再雇用も含めた仕事人生で、30キロ地点を過ぎたあたりを今、あなたは走っているんです。あと残り約10キロを、このままネガティブな気持ちで走り続けるのか。それとも、残りの10キロをどれだけ楽しく走りきれるか。どちらがいいかと言えば、後者に決まっているでしょう。走りきったあとの充実度もまるで違う。だからこそ、過去のネガティブな気持ちを1回、リセットしなくてはいけませんよ。
残りの10キロ、もっと自分の気持ちをポジティブに持って、楽しく会社で仕事ができるように頑張ってほしい。
付け加えると、現場をサポートする業務をしても、じゃまばかりしてうるさいと思われると言っているでしょう。実は、これこそあなたが必要とされている証し、仕事をしている意味なんですよ。
大竹:と言うと?
ベテランの「うるさ型」は組織の中で必要だ
上田:あなたの役割は組織の中で、ものすごく機能しているということです。
現場では、アウトソーシングが普通になっていると言っていたでしょう。あなたが言うように、あなたが若かったときには当たり前だった細部の技術的な詰めを理解している人が少なくなっているのは確かでしょう。自分で手を動かさないと分からない、身に付かないことも世の中には多いですから。
だから、どうしても細かな不具合などを見落としがちになる。そうならないように、あなたは既に現場を支えているんです。「うるさ型」と思われるのは、しっかりと役目を果たしているからです。
僕もファミリーマートにいた頃、店舗を急ピッチで増やした時期がありました。当然、納期が問題になります。店舗開発の担当者は当然、早く出そうと焦るわけです。
出店の際には、店舗物件の開発をやっている専門の会社にアウトソーシングする場合もあります。ところが、そうしたアウトソーシング先にはないノウハウを、古参の社員が持っているんです。
どこに出入り口を作るか、駐車場をどこにするるか、あるいは売り場をどのようにゾーニングするか……。古参の社員は昔から自分で足を運んで、自ら敷地の状況を見て、これら全てを判断してきました。だから、骨身に染みているわけです。
ところがアウトソーシングばかりしていると、出来上がった店舗を見てみたら、店舗の入り口が見当違いのところにあったり、ゾーニングを間違えて什器(じゅうき)がぐちゃぐちゃ置かれていたり、そういうことが起きかねない。
だから、役職定年になったような古参の社員に、店舗開発の申請書をチェックさせたんです。現役の開発担当にとっては、邪魔ばかりしているように見える。チェックに時間がかかって、競合相手に物件を取られてしまうこともある。
だけど、経営の立場から見れば、それでいいんです。古参の社員が注意してくれたおかげで、出店後の大失敗リスクを減らせるわけですから。ダメな店舗を出して、1年もしないうちに閉鎖ということになったら、5000万〜6000万円の損失につながるからね。
大竹:なるほど。
上田:必要なんです。あなたのような存在が、会社にとっては。だから、あなたもそれを、「こんな仕事は嫌だ」などと思わないでください。あなた方は、組織の中でしっかりと役に立っているんですよ。
大竹:むしろ、そこに誇りを持ってほしい?
上田:そうです。ネガティブな思いを抱くのではなく、ポジティブに考えましょう。そうすればあと10キロ、走るのが楽しくなりますよ。
読者の皆様から、上田さんに聞いてほしいお悩みを募集しています。仕事、家庭、恋愛、趣味など、相談の内容は問いません。ご自由にお寄せください。
>>悩みの投稿<<
*この連載は毎週水曜日掲載です
本連載「お悩み相談~上田準二の“元気”のレシピ」が本になりました! 反響の大きかった話を中心に、上田さんのアドバイスをぎゅぎゅっと編集して詰め込みました。その数、全35個。どれも読むだけで元気になれるアドバイスばかり。上田さんの“愛”がたっぷりのお悩み相談本となっています。ぜひお手にとってみてください。
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◇概要◇
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<第1章 人間関係に効く>
Q 上司の顔色ばかり見る組織に辟易/Q 上司が危機感を持っていない/Q 理不尽な部長の罵倒に耐えられない、など9個
<第2章 自分に効く>
Q 成長できる「前の職場」に戻りたい/Q もうここで「昇格」は終わり?/Q いいかげん、ぎりぎり癖を直したい、など15個
<第3章 恋愛・生き方に効く>
Q 安定した仕事を持つ男性の方がいい?/Q 出産のタイムリミットが近づいて/Q 年収も家柄も良いのに婚活失敗、など11個
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