上田準二さんの「お悩み相談」。今回は、新しいことにチャレンジしようと頑張るも、職場では「良くも悪くも目立つ」と言われ、「父の呪縛」という殻を破れないと悩む、38歳の女性から。上田さんは「それでいいのだ!」とアドバイスします。
悩み:上司から「良くも悪くも目立つ」と言われ、何か自分は殻を破れていないと悩んでいます。大変厳しい父の呪縛もあるのかもしれません。キャリアアップなど、諦めてしまったほうがいいのでしょうか。
毎週新規のお話を楽しみにしております、また、「上司の理不尽な指摘はあなたへの高評価の証しかも」などを繰り返し読んで、泣きたいときも、理不尽なときも、踏ん張っています。
私は既婚で3歳の息子がいます。夫の多量のアルコール摂取といった経済的な理由が大きく、フルタイムで働いています。キャリアアップもしたいです。しかしながら、自分は何か、殻を破れていないと感じます。
上司からは「良くも悪くも目立つ」「評価が分かれる」「お前を評価するとえこひいきと思われるのではないか、と躊躇(ちゅうちょ)する」と言われています。仕事はマーケティング担当で、法人営業担当者の支援をしており、支援した案件は100%受注させる自信があります。黒子に徹しているつもりでしたが、社長表彰もいただきました。
殻を破れない原因には、自分には父の呪縛があると感じています。父は、堅実なサラリーマンで、最後は社長にまでなりました。父のことは尊敬していますが、大変厳しいです。自分が生死をさまよったときも「死なない程度に働け、死にそうなら、会社に年金などを払わせないように死ぬ前に退職しろ」と本気で説得されました。
そのため、新しいことにチャレンジしたい、古い会社でも前例がないなら自分が前例になりたいと思う一方で、根本的な態度や考え方の古さが抜けません。何かを変えたくて、父の反対を押し切って、先月、息子とフランスに2週間行き、自分のフランス語の能力も確認でき、少し吹っ切れた気がします。ただ、それでも職場でのふがいなさは変わりません。
上田さんは、自分がもうひといき、変わりたいのに、殻がある感じでうまくいかないときは、どうされてきましたか。キャリアアップなどを期待せず、自分の未熟さを早く見切ったほうがよいのでしょうか。
(38歳 女性 会社員)
大竹 剛(日経ビジネス):頑張ってはいるけれど、どこか殻を破れていないような気がすると、どこか悶々(もんもん)としているようです。
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。2019年5月末に相談役を退任。(写真:的野弘路)
上田準二:この方へのアドバイスは、もう一言だよ。「それでいいのだ」。これに尽きるね。
「良くも悪くも目立つ」と言われているそうですが、いいじゃないですか、それで。それは、仕事ができるということの証しですよ。
仕事ができるということは、非常に評価もされる一方で、やり過ぎじゃないかという話は必ず出てくるものです。どんな組織でもね。いい面がすごく出ている人に対しては、周囲は悪い部分や欠点を探すものです。人事考課でも、いいところばかり評価するわけにはいかないんです。いいところを評価する一方、改善点などを指摘する。悪い部分も見なければならないんです。だから、「良くも悪くも目立つ」と言われていることは、あなたを評価している証しですから、むしろ自信を持ってください。
大竹:なるほど。良い面が目立つと、悪い面も逆に探させてしまうんですね。光と影、光が強いと、そのコントラストで影がさらに強調されるように。
上田:そう。能力がある人、仕事ができる人は、大なり小なり、みんな同じ状況に置かれています。弱点を、普通の人よりも根掘り葉掘り探られる立場にあるんです。
だけど、それでいいのだ。
ただし、悪い部分だけが目立って、その評価がひとり歩きしてしまっては困るから、上司、あるいは同僚に、「私の悪い部分はどういう点でしょうか。自分では気づくのが難しいから教えてください」という姿勢をしっかり持ってください。そうすれば、周囲の見方が今以上に良くなると思うよ。
「お前を評価するとえこひいきと思われる」と言われているみたいだけど、「もっとひいきにしてもらうために、もっともっと頑張ります」と言っておやりなさい。
そして、いちばん大切なことは、自分を責めないこと。もともと頑張って社長賞までもらっているんだから、自分を責めてはいけない。頑張っている自分を受け入れてください。
「死なない程度に働け」の真意
大竹:殻を破れていない、と悩んでいるようで、その背後には父の呪縛があるのではないかとも言っています。「父の呪縛」については、どう思いますか。
上田:お父さんは、たぶん僕と同じ年ぐらいの年代ですね。サラリーマンで社長になった。
この年代は平気で、そういうことを言うんですよ。「死なない程度に働け」みたいなことをね。僕も、ファミリーマートの社長になったとき、まさに似たようなことを言ったから。
当時、社員の意識が変わらなければ、おそらく10年後にはファミリーマートは競争から脱落しているだろうと思ったんだ。3流、4流のコンビニエンスストアになってしまっていると。
なんとなくやっていける。大手だと思っている。ところが実際は、日和見で“ゆでガエル”のような状況。この先、どんどん競争が激しくなっていくということを社員は理解しておらず、このままでは将来、業界再編が起きたときに、再編される側に回ってしまうという危機感を持ったんです。だから、社員を前に、このままでは生き残れない、とはっきり言いました。
社員に、「あれやろう」「これやろう」と言うと、みんなこう言うんですよ。「今でも大変なのに、そこまでやると死んでしまう」と。だから僕は、「みんな死んでくれ」と言ったことがあります(笑)。
大竹:過剰労働の強制で、パワハラですよ。「死んでくれ」はマズイでしょう。
上田:みんな「もう限界です」などと言ってばかり。そんな社員に変わってもらうには、どうしたらいいか。もちろん、「死んでくれ」は本心ではありません。24時間、365日働けと言っているわけではありません。ただ、会社を変えるためには、結果が出るまで徹底的にやる時期も必要なんです。
僕が話したのは、結果を出すために必死に仕事に取り組むことも必要なのではないか、という問題提起です。結果を出すために頑張ったら、そのあとは3日、4日、会社に来なくてもいい。勝手に休んでくれていい。だけど、とにかく結果を出せと。
「死んでしまう」という発言は多くの場合、「できません」「やりません」という意味で言っているわけです。だけど、そう言ってしまっては思考停止です。「できない」という意味で「死んでしまう」と言っていると分かったから、僕は「死んでくれ」と言ったんです。どうしたらできるのか、考えてほしいから。
あなたのお父さんは、おそらく僕と同じような時代に生きて、同じ価値観を持っているから、口から出るのは、つい、そんな言葉になってしまう。だけど、僕がお父さんの言葉を翻訳してあげると、そういう意味なんですよ(笑)。
大竹:でも上田さん、ただ「死んでくれ」「頑張れ」というだけではマネジメントとしてはよくないでしょう。それこそ現場は、今までの仕事を長時間残業で頑張り続けるということになりかねません。
必要なことをやるために、余計なことはやめる
上田:だから、やることを具体的に全部発表しました。これと、これと、これと、これと……。全部やるよと。
新しいことは、ただ残業して資料を作っていればいいというような話じゃありません。その方針を僕から出して、できるかどうか言ってもらった。そうしたら、「死んでしまう」という反応があったわけです。
大竹:新しい仕事は、それまでの仕事の上に積み重なっていくわけですよ。物理的に、仕事の量はすごく増えてしまう。だから、新しいことをやるには余計なことをやめるのも大事ですよね。ただ、意外とこれまでやってきたことをやめるのは難しいというのも、よくある話です。
上田:そうだよね。だから、不要なことは徹底的にやめさせました。
「できない」と言うから、なんでできないのか、理由を全部出させました。そうすると、いろいろと出てくるわけです。これがあって、あれもあってと。
僕はコンビニの素人だったから、なんでやっているのか、分からないものも多くてね。「なんでやっているの?」と聞いていくわけ。そうしたら、本人たちもよく分かっていない。それをやることで、お客さんや加盟店が本当に助かっているのか、考えていない。結果的に、加盟店のデスクワークが増えているだけのような仕事もあった。それをやめれば、その時間にお客さんへの対応をもっとできるのに。
だから、加盟店の売り上げにならない、喜んでいただけないものは、どんどんやめていきました。今から20年も前のことですが、当時、まだ電子化もあまりできていなくて、ひどい時には加盟店の担当者はカバンに何キロもある書類を入れて加盟店を回っていたんです。しかも、文書がやたらと冗長。本来、2ページで済むような内容しかないのに、10ページもダラダラと書いているような状況でした。もう、非効率極まりなかったよ。
申請書ひとつとっても、1つの案件で課長用、部長用、社長用、経営会議用……。何枚も作らなければいけなかった。それを1枚で済むようにするなど、いろいろやりましたよ。
新しいことをやるために物理的な問題で作業が苦しくなるのであれば、まずは今までやってきたことの棚卸しをどんどんやって、意味がないものはどんどんやめていく。その両方が必要だよ。
今の自分を受け入れよう
大竹:相談者のお父さんに話を戻すと、「父の呪縛」はあるのでしょうか。
上田:もし、本人がそう感じているのなら、それこそ「呪縛」と言えるのだろうね。ただ、さっき僕が話したような僕らの世代のコミュニケーションのやり方は、もう昔の話。「父の世代は、そういうコミュニケーションのとり方をするんだ」くらいに考えて、あまり気にしないこと。
ただし、これだけは心に留めておいてください。お父さんがそういう厳しい発言をするということは、あなたはお父さんの自慢の娘として、期待されているからです。実際、あなたは仕事ができる。だからこそ、しっかり働けと応援しているんですよ。その言葉が、「死なない程度に働け」ということになってしまうんです。
こういう発言は、もう過去の世代の発言で、今の時代には通用しません。お父さんは頑張るあなたを見ていて、愛する娘を応援する一方で、自分の現役時代を懐かしんでいるんですよ。お父さんも早く子離れしなきゃいけないけれど、あなたも親離れしなさい。
大竹:そういう意味では、今回の相談に対しては、「自分を責めず、今のままでいい」というのが、アドバイスですね。
上田:そう。あなたは自分を責める必要はありません。お父さんとの関係においてもね。僕も含めて、お父さんの世代は「過去の人」ですから。
大竹:この方は、「根本的な態度や考え方の古さが抜けません」と言っていますが、そう思い込んでしまっているだけかもしれません。
上田:まさしくそう。どんどん挑戦を楽しんでください。そして、お父さんとの関係、上司との関係、自分自身に正直でいましょう。自分が何をしたいのか、何を頑張りたいのか。そうすると、良くも悪くも職場で目立つ。でも、それでいいじゃない。
周囲の評価が分かれたって、いいじゃないですか。自分に正直にやっていたら。
殻を破れないなんて、今のあなたは悩むことなんかありません。
大竹:正直に生きましょう。
上田:そう。あなたには、「殻を破れない」と言って内面に閉じこもるよりも、逆にぼーんと外に向かって自分の心を押し出していくほうが似合っています。いろいろなことを言われながら、お父さんの反対も押し切って、母子でフランスを2週間、旅行したんでしょう? 行動力あるじゃない。
それでいいのだ!
読者の皆様から、上田さんに聞いてほしいお悩みを募集しています。仕事、家庭、恋愛、趣味など、相談の内容は問いません。ご自由にお寄せください。
>>悩みの投稿<<
*この連載は毎週水曜日掲載です
本連載「お悩み相談~上田準二の“元気”のレシピ」が本になりました! 反響の大きかった話を中心に、上田さんのアドバイスをぎゅぎゅっと編集して詰め込みました。その数、全35個。どれも読むだけで元気になれるアドバイスばかり。上田さんの“愛”がたっぷりのお悩み相談本となっています。ぜひお手にとってみてください。
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◇概要◇
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<第1章 人間関係に効く>
Q 上司の顔色ばかり見る組織に辟易/Q 上司が危機感を持っていない/Q 理不尽な部長の罵倒に耐えられない、など9個
<第2章 自分に効く>
Q 成長できる「前の職場」に戻りたい/Q もうここで「昇格」は終わり?/Q いいかげん、ぎりぎり癖を直したい、など15個
<第3章 恋愛・生き方に効く>
Q 安定した仕事を持つ男性の方がいい?/Q 出産のタイムリミットが近づいて/Q 年収も家柄も良いのに婚活失敗、など11個
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