上田準二さんの「お悩み相談」。今回は、転職して3年目、社長と衝突して仕事を干された女性から。この先、どうすべきか悩んでいます。上田さんは、組織で生き抜くための「ゴマすり3種」=「直ゴマ」「間ゴマ」「逆ゴマ」を伝授します。ネガティブなイメージのある「ゴマすり」ですが、その本質とは?
悩み:転職して3年目、社長とぶつかってしまい、仕事を干されてしまいました。年齢的にも転職は難しく、借金があり起業も難しい。こんなダメな私に、アドバイスをお願いします。
いつも楽しみに拝読しています。先日、仕事を干されている女性のお悩みを読み、思わずホロリとなりました。
就職して以来、知的財産という特殊な世界でやってきました。役職なしです。現在の会社に転職して3年目に入りました。小さな会社なので社長と接する機会が時々あります。先日、判断を仰ぎたい件があって面会したとき、用事とは別件で大変怒られました。色々やりとりしましたが、最後に私が「生産管理部はおかしい」と言ったことが、一番社長の気に障ったらしいのです。
私は社長に問われたことに自分の考えや状況を伝えたつもりだったのですが、社長は「俺に逆らった」と受け取られたようです。周囲の人たちには「適当にスルーしないお前が悪い」と思われたようです。仕事を干されていますが、年齢、キャリアとスキルの無さで再転職は無理。借金さえなければ起業したいですが、やりたいことも見つかりません。こんなダメな私にアドバイスを頂ければ幸いです。
(55歳 女性 会社員)
大竹剛(日経ビジネス):「いつも楽しみに拝読しています」ということで、上田さんのファンのようです。
上田準二:借金があって……。
大竹:住宅ローンか何かでしょうか。
上田:どうだろう。ただ、借金があって、起業したいけれどもそれもできないというのが、1つの現実だ。
大竹:そもそも「やりたいことも見つかりません」と言っています。
上田:やりたいことも見つからない。でも、起業したい。だけどお金もありません。これが今回の悩みの大前提だね。その上で、さてあなたはどうするのか。当面はこの会社で働いて、年収を確保しなきゃいけない。つまり、これが動かしがたい現実です。
これを前提に考えると、あなたは今、何をなすべきか。まずは、社長に謝るしかない。
大竹:直接ですか。
上田:同僚や上司を通じて謝っても、何の効果もありません。かえって社長がへそを曲げるだけです。
でも、あなたが直接、社長に会って話すとまた同じことの繰り返しになる可能性があるから、手紙を書くことです。
大竹:なるほど、手紙ですか。
「謝罪」では、相手を褒めろ
上田:そう。ただし、手紙を書くときのポイントがある。
大竹:なんでしょうか。
上田:社長を褒めたたえること。
「この間の一件では、私の知識と判断力の稚拙さにより、社長に大変不快な思いをおかけし、お怒りを頂戴しました。身に染みて深く反省する状況にあります。社長のお言葉は本当に身に染みました。」
大竹:もう、そのままコピペして出せそうです(笑)。
上田:社長がこの相談室でのやりとりを読んでいたら、逆効果かもしれないけどね。
ポイントは、「社長はすごい」「感服しました」という感じの手紙を書くことです。組織の中で生きていくためには、時にはこういうことをできるようにならないといけません。
大竹:プライドや見栄は邪魔だと。
上田:パスカル先生も言っています。「人間は自然の中で一番弱い葦(あし)のひと茎。しかし、考える葦だ」と。パーッと風が吹くとやられてしまうが、だけど折れない。またすっと立つ。
あなたもちゃんと考えないと折れちゃうよ。だから、考えなさい。
大竹:この方は就職してからずっと、知財という専門性の高いお仕事をしてきましたから、そのプライドもあってガツンと社長に反論してしまったのかもしれませんね。
上田:自分の理論を通すことが会社のためであったとしても、相手は社長。通し方を考えないといけない。合理的な意見であっても、素直に受け入れられないという社長も多いからね。だいたい社長というのは、知らず知らずのうちに高圧的になるものなんだよ。「何でもフランクに議論しましょう」という趣旨の会だったとしても、「おい君、意見を言え」みたいに命令口調になる。そんなことをしたら、誰も本音を言わないのにね。
ある意味、本音でぶつかることができたあなたは素晴らしいですよ。けれど残念なことに、この社長はそれを素直に受け入れられないのかもしれない。きっと、それまでそういう人物はこの会社にはいなかったのだろうね。
だからまず、この問題を解決するには、あなたから直接、社長に手紙を出すことです。自分が言ったことが間違っていた、社長は素晴らしいと、とりあえず謝る。あなたの本心はどうであれ、まず謝る。
すると、不思議なことに、そういう社長というのは、謝られると気持ちが落ち着いて、「彼女が言ったことも本当は正しいんだよな」という気持ちになるものです。
「いやあ、上田さん。この間、上田さんにバシッと怒ってもらって、効きました。本当に浅はかでした」と言われると、「あの野郎」と怒ったことも忘れて、「あいつの言うことは一理あって痛いところを突かれたから頭に来たんだよな」と反省するわけです。
大竹:なるほど。一理あったからこそ、社長は怒った。やはり、その辺をうまく、柔軟に謝れるようにならないと、組織の中ではうまく生きていけませんか。
上田:「謝る」という技術は、自分が悪いときだけではなく、相手を褒めるときにも使えるんだよ。
僕はそうやってきたよ(笑)。
例えば、部長から部下がたくさんいる前で、「上田、お前、仕事をなめているのか」とすごい迫力で怒られたとするでしょう。それをそのままで終わらせてしまうと、「上田にはもう、あの仕事をさせるな、お客様に会わせるな」となってしまいかねない。だから、即座に「いや部長、おっしゃる通りです。本当に、私の不徳の致すところです。申し訳ありません。部長はいつも、先のこと、細かいところまで目配りが行き届いていて、素晴らしいです。私なんぞは、とてもとても……。お叱りを頂いて目が覚めました!」とでも言っておくんです。
「ゴマすり」には「直ゴマ」「間ゴマ」「逆ゴマ」がある
大竹:本心でそう思っていなくても、反射神経でそういうように打ち返すんですね(笑)。でも、そんなことをやると、今度は周りの後輩から、「何だ、上田さんは部長にへいこら、へいこらして、二枚舌使って信用ならん」と言われませんか。
上田:大竹さん、「ゴマすり」には3種類あるのを知っていますか?
大竹:いや、知りません。何ですか? ゴマすり3種?
上田:「直ゴマ(じきごま)」「間ゴマ(かんごま)」「逆ゴマ(ぎゃくごま)」です。
大竹:すみません。初耳です。
上田:直接ゴマをするのが「直ゴマ」。間接的にゴマをするのが「間ゴマ」。それから、相手を怒らせてゴマをするのが「逆ゴマ」です。
大竹:まず、「直ゴマ」とはどんなものですか。
上田:「いやあ、もう部長のおっしゃる通りです」(上田)
「上田、何か言いたいことないのか」(部長)
「いえいえ。私の言いたいことは部長が既におっしゃいました。もうそれ以上のお話はありませんよ。部長はもう全部見ていらっしゃいますから」(上田)
これが「直ゴマ」。いわゆる、最もオーソドックスなタイプのゴマのすり方です。
ただし、これで効果がないタイプの上司もいる。「あの野郎、信用ならんな」と逆に思われてしまう。だからこそ、相手のタイプを見て「ゴマすり3種」を使い分ける必要がある。
僕はどちらかというと「間ゴマ」をよく使っていたな。
大竹:では、「間ゴマ」の実演をお願いします。
上田:「部長、もうおっしゃる通りです」(上田)
「お前なんかもう最低だ。何をやらせても出来が悪いな。お前なんかにはもう、こんな仕事は回せない」(部長)
「申し訳ありません」(上田)
と、ここはいったん、引き下がる。「おっしゃる通りです」と「直ゴマ」でいこうとしても、相手が取り付く島なく怒っているときにどうするか。こちらも、せっかく直ゴマをしようとしているのに取り付く島がないから、ムッとしてくる。
それを続けていても仕方がないので、いったん引き下がるんです。で、その日のうちか、遅くとも数日以内に、同僚と飲みに行くんですよ。
大竹:怒っていた部長の同僚ですか?
上田:いや、自分の同僚たちと。そこで、神妙な顔をしてこんな話をするんです。
「あの部長、すごいよね。もう、全部お見通しだもん。あの人はやっぱり、すごい知識と見通す力を持っている。俺はもうこれで怒られるのは2回目だけど、3度、あの部長から言われないように、よほど慎重に仕事をしないといけない……」
面白いものでね。そういう噂は、不思議と広まるものなんだよ。「上田が部長のことを、こう言っていましたよ」とね。
その効果は、もうてきめん(笑)。後日、部長から声がかかる。「上田君、ちょっと飲みに行こうか」ってね。そして、「君に今度、この仕事をやってもらおうと思う」なんて言ってくるんだ。「もうお前なんかにやらせられない」と言っていたのに。
大竹:面白いですね。上田さんが話していたことを部長に陰で伝えそうな相手を選んで飲みに行くんですか。
上田:もちろん。これが「間ゴマ」。
それと、「間ゴマ」にはもう1つ手がある。
大竹:何ですか?
「マイナス」を「プラス」だと言ってゴマをする
上田:奥さんを間接的に褒めるんですよ。部長本人がいない席でこんな話をする。
「この間ね。部長と奥さんの食事に同席させてもらったんだけど、奥さん、すごくすてきな方なんだよ。品があるし、話題も豊富だし、気遣いも完璧。あの部長、よくあんなすてきな奥さんをもらえたものだな」
大竹:こういう話もすぐ伝わる。奥さんを褒められて嫌な気持ちになる人はいない。
上田:そう。まあ、これは1つの例で、上司とぶつかっているようなときは、相手がふっと喜ぶようなことを、直接ではなく、間接的に、しかも確実に伝わるように話すのが「間ゴマ」。
大竹:最後の「逆ゴマ」というのは何ですか。
上田:例えば、パワハラ的、高圧的な上司っているでしょう。そんなときは、もう、上司のパワハラ、怒りに便乗するんです。むしろ、あえて怒らせて、そこに便乗するくらいの高度な技だ。
「いやあ部長、本当にあんな手当たり次第に、何でもかんでも軍隊調でガンガン、口でなぎ倒すような言い方をしていると、誰もついてこないですよ」(上田)
「何だと? だいたいお前らが甘ったれているから、こんなことになるんだ」(部長)
「部長はいつも、ものすごく積極的で、仕事もバンバンこなしていますが、誰にでも通用するわけではないと思いますよ。特に僕なんかは、部長の迫力に負けちゃって、次の行動、取れなくなるんです。本当に部長の怒り方はすごいんですから」(上田)
「上田のやる気が足りないだけだろう」(部長)
「部長が怖すぎるんですよ。僕はまだ鈍感だから大丈夫ですが、周りにも同じようにやられたら、部長の迫力で一撃でつぶれてしまいますよ。お願いですから、息の根を止めないでください。部長はすごすぎるんです。運動部でもやっていたんですか。確かラグビーですよね。本当にすごいですものね」(上田)
大竹:怒っていることそのものを褒めるということですか?
上田:要するに、普通のゴマすりは、よいしょすることでしょう。でも、よいしょしても、「何だお前、ゴマばかりすりやがって」と、ゴマすりをものすごく嫌う人もいるでしょう。だから、「逆ゴマ」をするわけです。怒り方がものすごく怖い上司に対しては、その怖いところがすごい、素晴らしい、と褒める。普通は「マイナス」として受け取られることを「プラス」だと言ってゴマをする。だから「逆ゴマ」。
「ゴマすり」はコミュニケーションの高等テクニック
大竹:高度すぎて、私には無理です。
上田:まあ、難しく考えないことだね。「ゴマすり3種」の話をしたのは、本心ではそう思っていなくても、目的を達成するためには、相手のことをよく考えて、コミュニケーションを円滑にすることも大切だということを伝えたかったからです。
ゴマすりの基本は、相手に「自分のことを認めているな」と思わせることなんだ。あなたが、相手を本当に認めているかどうかは関係なく、「そう思わせる」ことが大切です。
大竹:上田さんは、そういう技をいつごろ習得されたんですか。
上田:「人間は考える葦である」(笑)。人類は自然界で一番弱い動物だから、考えなきゃいかん。
どうやって、自分が与えられた環境で生きていくのか。周りが悪い、環境が悪い、相手が悪い、とばかり言うのではなく、どうやったらそこで生きていけるのか、生きていけないのなら、どうやってそこから脱却するのかを考えるんです。
大竹:「ゴマすり」というと、ダサい、ズルい、といったイメージが付きまといますが、ゴマすりの本質を見ていない。
上田:ゴマすりの本質は、相手に応じた最適なコミュニケーション手法を考えることです。あなたが、達成したい目的のためにね。組織によって、上司と部下の関係性によって、コミュニケーションのルール、文脈は様々です。それを前提に、最適なコミュ二ケーションを考えることを喜びとすればいいじゃない。
大竹:そのためにも、「ゴマすり3種」はいいヒントになりますね。
読者の皆様から、上田さんに聞いてほしいお悩みを募集しています。仕事、家庭、恋愛、趣味など、相談の内容は問いません。ご自由にお寄せください。
>>悩みの投稿<<
*この連載は毎週水曜日掲載ですが、都合により今回は木曜日に掲載しました
本連載「お悩み相談~上田準二の“元気”のレシピ」が本になりました! 反響の大きかった話を中心に、上田さんのアドバイスをぎゅぎゅっと編集して詰め込みました。その数、全35個。どれも読むだけで元気になれるアドバイスばかり。上田さんの“愛”がたっぷりのお悩み相談本となっています。ぜひお手にとってみてください。
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◇概要◇
『とっても大きな会社のトップを務めた「相談役」の相談室』
<第1章 人間関係に効く>
Q 上司の顔色ばかり見る組織に辟易/Q 上司が危機感を持っていない/Q 理不尽な部長の罵倒に耐えられない、など9個
<第2章 自分に効く>
Q 成長できる「前の職場」に戻りたい/Q もうここで「昇格」は終わり?/Q いいかげん、ぎりぎり癖を直したい、など15個
<第3章 恋愛・生き方に効く>
Q 安定した仕事を持つ男性の方がいい?/Q 出産のタイムリミットが近づいて/Q 年収も家柄も良いのに婚活失敗、など11個
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