上田準二さんの「お悩み相談」。今回は、50代目前でいまだ、同期でただ一人、課長になれずに悩む男性から。出世だけが人生ではない、と分かってはいても、気持ちの切り替えができません。上田さんは『釣りバカ日誌』のハマちゃんを例にアドバイスをします。
悩み:50代を前にして、管理職への昇進が何度も見送られ、同期でただ1人、非管理職です。この先、どのような気持ちで仕事に向き合っていったらよいでしょうか。
地方の信用金庫に勤務している者です。管理職への昇格対象になってから昇格が7回見送りとなっています。今回の人事異動でとうとう同期10人のうち私だけが非管理職として取り残されることになってしまいました。
同期の約半分は支店長、ですが私はまだその2階級下です。昇格対象となってから5人の支店長の下で働き、そのうち2人は管理職に推すことを私に直接言ってくれましたが、そのときの人事担当役員が昇進見送りの理由として「営業店での経験が少ない」「視野が狭い」と言っているという話を当時の支店長から聞きました。
でもそれは詭弁(きべん)であり、理由はほかのところにあるような気がします。過去、1人推してくれなかった支店長がいますが、「コミュニケーション能力に欠ける」というのがその理由でした。30代後半に直属の上司に刃向かって異動になったこともその原因の1つと考えています。自己分析をしているのですが、物静かなタイプなので管理職に求められる要件の1つである他人を巻き込んで仕事を進めていく能力に欠けていることや、仕事は地味にコツコツやる方なので、周囲の印象に残りにくいのかもしれません。
あまり笑わないし、生真面目な性格が悪い方に出て、仕事ぶりから明るい雰囲気が感じられないこともあるかもしれません。人は誰でも自分自身を2~3割増で自己評価しているとごんいいますが、そのことを割り引いても毎年下の人間から抜かれ、いつこの状況から抜け出せるのだろうと思うと気持ちがへこみます。
50代の生き方に関するいろいろな本を読み、仕事が人生のすべてではなく家族や地域のつながりの方が定年後の人生には大事であることや、役員にならない限りポスト不足で昇進はいつか誰にも終わりが来ることは理解できるのですが、人生の試練として受け止め、日々の目の前の仕事に真摯に取り組むことと、自分が必要とされているということを実感するレベルまでボランティアなどの地域活動に積極的に参加する以外に方法がないというところが現時点での私の考えです。職場の同僚と自分を比較し過ぎるのは自分の心を貧しくするだけということは、さまざまの著者が共通して言っていることですが、どうしても自分の考え方を切り替えることができず苦しいです。
(47歳 男性 会社員)
大竹剛(日経ビジネス):今回は、47歳の男性からです。いまだに管理職に昇格できず、50歳を目前に、どのように生きていくべきか悩んでいます。
上田準二(ユニー・ファミリーマートホールディングス元相談役):この人は、自己分析はよくできているんだよ。だから、頭は良いんだと思う。文章もしっかりしているしね。
でも、サラリーマンというのは頭が良ければ出世するというわけじゃないんです。頭が良すぎて内面で考え過ぎて、結局、周りとのコミュニケーションといったことがおっくうになる、嫌いになる。それで、たまさか自分の意見を押し通すと、今度は、「あんな物静かでおとなしい人が感情的に上司に刃向かった」と周囲から冷たい目で見られる。
大竹:まさに、この方はそういうことなのかもしれませんね。
まずは、厳しい現実を受け入れよう
1946年秋田県生まれ。山形大学を卒業後、70年に伊藤忠商事に入社。畜産部長や関連会社プリマハム取締役を経て、99年に食料部門長補佐兼CVS事業部長に。2000年5月にファミリーマートに移り、2002年に代表取締役社長に就任。2013年に代表取締役会長となり、ユニーグループとの経営統合を主導。2016年9月、新しく設立したユニー・ファミリーマートホールディングスの代表取締役社長に就任。2017年3月から同社取締役相談役。同年5月に取締役を退任。趣味は麻雀、料理、釣り、ゴルフ、読書など。料理の腕前はプロ顔負け。2019年5月末に相談役を退任。(写真:的野弘路)
上田:私もサラリーマン生活が長いですから、こういう方は今まで何人も見てきています。一生懸命、真面目にやっているんだけど、どうも管理職には向いてないという人はいるわけです。本人も自己分析して、きっちり自分のことを分かっている。僕も大きな組織にいましたが、同期入社200人の中で課長になれた人はどれほどだったか。
大竹:商社はどれぐらいの人が課長になれるのですか。
上田:正確には覚えていないけど、僕らの年代から下の世代は、どんどん課長のポストが少なくなっていきましたから。
会社自体が大きくなって、組織も増えたけれども、それ以上に採用人数が増えていたからね。採用人数がドーンと増えても、それだけの課が増えていくわけではないから。
そうすると当然、定年、あるいは定年間際まで課長にもなれなかった人が結構大勢いるわけですよね。そうしたとき、組織の中でどう生きるのか。そこは問題だよね。
脱サラして自営業をやるか、転職するか。自営業といっても簡単ではないし、転職したところで、同じような環境か、今以上に厳しいことになりかねない。
彼も「他人と比較するのは自分の心を貧しくする」と言っていますが、その通りなんですよ。だけど気持ちが切り替えられない。さてどうするかだ。
まず、これだけの自己分析ができているんですから、過去をすべてリセットして自分自身のこれからのことを1回、考えてみましょう。そうしたら、厳しいけど、この組織の中でどんどん昇進していくことが難しいことは、分かるでしょう。そのうえで、定年までどうやって生きていくのか。
大竹:この方も、既に昇進が難しいということは、ある程度、もう答えとして出しているようです。
上田:一度、答えを出したら、同じ問答を自分の中で繰り返さず、はっきり自分にけじめをつけましょう。そして、これからは職場での出世を念頭に置きながら仕事をするのではなく、いかに自分が楽しく仕事をするか。その方法を考えましょう。管理職にならないということで、責任の重い仕事は来ないでしょう。であれば、負担の軽い仕事をいかに楽しんでやるか。
僕は、すごいなぁと尊敬した同期がいるんです。僕が部長だったときに、まだ課長になっていなかった同期でね。彼は非常にまじめで物静かだったんだけれども、あるときから、ものすごく明るくなったんだよ。会社ではいつもニコニコしているし、仕事が終わってから飲みに行っても、話題も明るい。
僕は当時、プレッシャーやストレスがあって、酒を飲んでは愚痴をこぼしていたんだ。そうしたら、「上田、お前は何をあくせくしているんだ。お前は、部長になったんだから、プレッシャーを感じるのは当たり前だ。俺はそういう抱えるものがないから楽しいぞ」と。生き方を変えちゃったわけ。
大竹:上田さんが部長になったのは何歳のころですか。
上田: 45歳。
大竹:早かったんですね。
上田:早かった。部長はだいたい50歳を過ぎてからだったから、当時では一番早かった。
彼は、悩みなりストレスなり仕事上のプレッシャーを感じている人間に対して、ものすごくいいカンフル剤役になっていたわけですよ。「お前、そんなこと真正面から気にする必要ない。命を差し出せだとか言われたわけじゃないんだから」「上司からギャンギャンやられているのは、お前の年収の一部だと思え。俺は大きな責任を負わされていないから、そんな年収の一部もないけどな(笑)」とか、うまいことを言って場を和ませる。
彼は、ある時点で会社での自分の将来を完全に見切ったんだね。それで転職するわけでもない。上司に抵抗するわけでもない。ただ、職場が楽しくなるようなパフォーマンスをし始めたわけ。例えて言えば『釣りバカ日誌』のハマちゃんだ。
ハマちゃんは、会社にとっては必要な人なのよ。辞めてくれと言われる人じゃない。仕事ができない、コミュニケーション能力もない、というわけではなく、管理職には向かない、というだけなんです。これからは特に、誰もが管理職になれる時代ではなくなっていくよ。そんなとき、いつまでも会社の中での出世を気にして楽しくない人生を送るより、どこかで出世を見切って違う生き方を探す方が、人生、楽しいでしょう。
若手からの突き上げにどう対処する?
大竹:ですが上田さん。仕事の割に高い給料をもらっているシニア社員に対しては、若い世代から、「あの人、仕事してない」「給料分は働いてほしい」といった突き上げがあるという話は、よく耳にします。
上田:それは、やはり何となく暗くて、会話もなくて、出世できなかった自分に対してすねているようなシニア社員に対しての不満じゃないの? 堂々と、明るく元気に楽しんで仕事をしているシニア社員には、そんな突き上げは出てこないと思う。バリバリ仕事をしている若い社員から見たら大した仕事じゃなかったとしても、明るいシニア社員は悩みを抱えている若い社員にとっても手本になるはずだよ。
腐らず、明るく、与えられている仕事をしっかりとこなしていく。一方で、会社の外で趣味とかボランティアとか、仕事とは関係のない活動も積極的にやる。そうすると、上司の見る目もまた変わってくるよ。
大竹:管理職になっても、50歳を過ぎると今度は、役職定年などの制度である一定の年齢でポストをはく奪される場合も増えています。55歳あたりが一般的ですが、会社やポストによってはもっと若くして役職定年になる場合もあります。その結果、モチベーションが下がってしまうという問題もよく聞きますが、こうした問題は昔からありましたか。
上田:今は、役職定年、それから定年後再雇用という問題で、そういったシニア社員はものすごく増えたよね。だけど、大なり小なり昔もあったわけで、僕が部長になったときに、その部に籍を置いていた社員は50人いて、年齢的に僕は25番目だったんですよ。つまり、25人、僕より年上がいた。
当然、「年下に使われるのか」とか「俺の子分だったやつに仕えるか」と思う人も出てくるかもしれない。そこで僕は、こう言ったんです。
「今は、この部がなくなるかどうかの瀬戸際です。先輩たちは、キャリアなり経験なり、取引先との人脈なりを、私以上に持っているわけですから、ぜひ力を貸してください。先輩たちのこれから先のことは、僕は部長として、皆さんの人事や処遇その他に関しては良くなるように、徹底的に頑張ります。だから皆さんも、僕を徹底的に支持してください」
大竹:なるほど。先輩のキャリアをたたえたうえで、処遇に対してベストを尽くすと。
上田:年齢の上下に関係なく、部下を褒めて、やる気にさせる。そうしたら、「まあ、上田のために応援してやろうか」という気持ちになってくれた。後輩の僕を先輩たちは本当に支えてくれましたよ。僕も、その人たちの処遇については、ベストを尽くした。実際、それまで評価されていなかった人でそのあと昇進した人も何人もいたよ。
本当は心の中で「俺が部長になっていたはずだ」と思っていた方もいたでしょう。だけど、そんなことを言っていたら、組織の中では生きていけません。後輩が上司になったとしても、自分が経験してきたことを踏まえて、職場を元気づける、悩んでいる若手がいれば、話を聞いてあげる。そんな役割を果たせば、今度は上司も、あなたにそういう器量があったんだと、再評価することもあるでしょう。
ただし、それは再評価してもらうためにやるんじゃなくて、あくまでも自分自身のためにやるんだよ。
大竹:再評価されることを目的にすると、また、他人と比較してつらくなる。
上田:そうです。
大竹:この方は、「あまり笑わない」と言っていますが、そこは少し、笑った方がいいですよね。
上田:自己分析ができているのに何も変えないというのは、少し努力が足りないよ。マイナス面に働いていることが分かっているのに、「変えられない」と決めてしまうこと自体が努力不足です。
だいたい、40代も半ばになれば、その先の会社の中での昇進の可能性は見えてくるものでしょう。役職定年も今は50代が多いでしょうが、これからは、40代中盤で役職定年という会社も出てくるでしょう。
大竹:会社からは追い出されないけれども、事実上の定年みたいな状況が始まる時期が40代に下りてくる可能性もある?
上田:そう。だから企業も社員も、それをどう活用するかが大切になってくるんです。企業も社員も、ネガティブじゃなくてポジティブに捉えてやっていかないと、会社も自分自身も損する。
役職定年、定年後の再雇用。さて、あなたはどう生きるか。
大竹:「人生100年時代」といわれ、最近では生涯、学び続けることが推奨されています。
上田:だけど、学び続ける生き方は、誰もができるわけではないよ。そもそも、学び続けられるような人だったら、もっと上のキャリアを目指せていたでしょう。自然に学び続けられる人以外は、「学ばなきゃ」というモチベーションは自分自身のステップアップを望まないとなかなか出てこないものだよね。
学び続けようという気持ちがなくたって、生きている以上、毎日何かの知識なり経験なりが積み重なっていくんですよ。大上段に、「学ばなきゃ」と思わなくても、自分が経験してきたこと、学んできたことを踏まえて、職場の潤滑油になるような生き方だってあるんです。
大竹:学び直して、新しいスキルを身に付けて……といった生き方がすべてではないということですね、
上田:そういうことです。
読者の皆様から、上田さんに聞いてほしいお悩みを募集しています。仕事、家庭、恋愛、趣味など、相談の内容は問いません。ご自由にお寄せください。
>>悩みの投稿<<
*この連載は毎週水曜日掲載ですが、今回は都合により木曜日に掲載しました。
本連載「お悩み相談~上田準二の“元気”のレシピ」が本になりました! 反響の大きかった話を中心に、上田さんのアドバイスをぎゅぎゅっと編集して詰め込みました。その数、全35個。どれも読むだけで元気になれるアドバイスばかり。上田さんの“愛”がたっぷりのお悩み相談本となっています。ぜひお手にとってみてください。
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◇概要◇
『とっても大きな会社のトップを務めた「相談役」の相談室』
<第1章 人間関係に効く>
Q 上司の顔色ばかり見る組織に辟易/Q 上司が危機感を持っていない/Q 理不尽な部長の罵倒に耐えられない、など9個
<第2章 自分に効く>
Q 成長できる「前の職場」に戻りたい/Q もうここで「昇格」は終わり?/Q いいかげん、ぎりぎり癖を直したい、など15個
<第3章 恋愛・生き方に効く>
Q 安定した仕事を持つ男性の方がいい?/Q 出産のタイムリミットが近づいて/Q 年収も家柄も良いのに婚活失敗、など11個
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