今この時代に医者として働く意義はどこにあるのか、医者とは本当に尊い職業なのか――医者の実像をリアルに描き出す現役外科医の中山祐次郎氏の著書『それでも君は医者になるのか』(日経BP)は、日経ビジネス電子版の連載から生まれた。

 新型コロナウイルス感染症との戦いで最前線に立ち、人の命を救う「医師」という職業は、高いとされる年収などから親が子供に就かせたい職業でもある。だが一方で、その長時間労働が問題となったり、救急科や外科など勤務がハードな科が敬遠されたりする実態もある。

 本書の発売に際し、中山氏の母校である聖光学院高等学校に通う医学部志望の高校生との対話を、前回に続きお届けする。

(写真:123RF)
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医療の現場はパワハラの嵐… というのは昔の話

引き続き、中山さんの母校の医学部志望の高校生3人(A君=2年生、B君=1年生、C君=1年生)とオンラインでの対話を続けます。前回は医者を志したきっかけなどの話題で盛り上がりました。

 話は変わって、中山さんは現役の外科医でありながら、小説家としての顔も持っています。シリーズ38万部の大ヒットとなっている『泣くな研修医』シリーズ(幻冬舎文庫)は、2021年春にテレビ朝日系列で連続ドラマ化されました。その研修医の日常の描写は、やはりご自身の体験がベースになっているのですか?

中山祐次郎氏(以下、中山):おかげさまで『泣くな研修医』は多くの人から感想をもらったのですが、その中で「こんなに厳しいわけがない」とずいぶん言われました。いわゆるパワハラ(パワー・ハラスメント)の嵐のような、上司から怒鳴りつけられたり、むちゃな仕事を押し付けられたり、何日も泊まり込んで働いたり。

 でも、僕が研修医だった15年前は、本当にあんな現場だったんです。上司のドクターは怒鳴りつけるような怖い人が多いし、ずっと眠かったですし、いつも疲れ切っていました。仕事ができないから半人前としても扱ってもらえず、「自分はなんて情けないんだろう」と自信さえ失っていました。

A君:確かに、読んでいて大変そうだなと思いました。

中山:今の病院はあんなふうに厳しいことはないですよ。働き方改革は着実に医者の世界にも進んできて、1週間病院に泊まり込みで働け、なんていうことはない。むしろちゃんと休まないと怒られるくらいです。

 だけど、それだとドラマチックにならないですよね。健康的で顔がツヤツヤと充実している研修医の話というのは、あまりドラマ向きではないので。僕が研修医だったころの状況をもとにしているということで勘弁していただきたい(笑)。

医学部志望の高校生が問う「患者の死をどう乗り越えているのか」

小説やドラマ、そして中山さんの新刊『それでも君は医者になるのか』(日経BP)では、「患者の死とどう向き合うか」がテーマの1つになっています。これについては、3人はどう思いましたか?

B君:お医者さんは、患者の命を左右するとても責任のある仕事だと思います。長くお医者さんを続けていけば、たくさんの患者さんの死を経験していくわけですが、その悲しみは、どうやって克服したり、乗り越えたりしていくのでしょうか。

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