新型コロナウイルス感染症の大流行によって世界的に存在感を増しているのが、医師をはじめとする医療関係者だ。それを反映してか、日本と米国では大学の医学部の志望者がそれぞれ増加したという報道もある。
感染症との戦いで最前線に立ち、人の命を救う医師という職業は、高いとされる年収などから親が子供に就かせたい職業でもある。だが一方で、その長時間労働が問題となったり、救急科や外科など勤務がハードな科が敬遠されたりする実態もある。
今この時代に医者として働く意義はどこにあるのか、医者とは本当に尊い職業なのか。医者の実像をリアルに描き出す現役外科医の中山祐次郎氏の著書『それでも君は医者になるのか』(日経BP)は、日経ビジネス電子版の連載から生まれた。本書の発売に際し、中山氏の母校である聖光学院高等学校に通う医学部志望の高校生との対話をお届けする。

理系で学年ビリ。それでも医者を志した理由
中山さんの著書『それでも君は医者になるのか』のテーマの1つである「今この時代に医者になるのはどういうことなのか」を深掘りするために、中山さんの母校に通う医学部志望の高校生3人(A君=2年生、B君=1年生、C君=1年生)とオンラインで対話することになりました。
中山祐次郎氏(以下、中山):今日はよろしくお願いします!
3人:よろしくお願いします。
早速ですが、中山さんはいつごろ医者になろうと決めたのですか。
中山:高校1年生のときです。医者という職業は特殊で、大学の医学部に進学することがそのまま実質的に職業選択になります。医学部に行くには理系に進まなければならない。母校の聖光学院は高校2年生から理系と文系に分かれます。僕は文系科目のほうが得意だったので散々悩みましたけれども、思い切って理系を選択しました。
ただ、理系科目の成績が悪すぎて親や先生から反対されるし、2年生の最初のテストでは理系全体でビリの順位を取ってしまいました。それでも医者になれますから、みなさん安心してください(笑)。
A君:それは非常に勇気づけられる話です。僕も文系の科目のほうが得意で、理系を選択するかどうか悩みました。
中山:文系の素養も医者になってから役に立ちますけどね。大学入試では理系の科目を頑張らないといけない。僕は、家の方針で医学部に進学するなら国立大学のみだったので、結果として2浪しました。
それでも医者を志した理由は何だったんでしょうか。
中山:僕の両親は医者でも医療関係者でもありません。医者を志したきっかけは、15歳のころに読んだ新聞記事でした。それは東南アジアのどこかの国で、テロ組織が村から子供をさらって兵士に育て上げている、というような内容で、雷に打たれたような衝撃を受けました。
自分は平和な日本に生まれて、安くはない聖光学院の授業料を払ってもらって、勉強している。一方で東南アジアのその国では同い年くらいの子たちが、村を襲われ、信じられないようなひどい目に遭っている。このとき僕は、この世界に厳然と横たわっている「不公平」を、恥ずかしながら初めて知ったわけです。
どうすれば世界の不公平をなくせるか、いろいろ考えた結果、自分は現場で体を動かすタイプの人間だから、医者になって紛争地帯で傷ついた人を片っ端から治していけばいいんじゃないか、と思ったのがきっかけなんです。
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