こんにちは、総合南東北病院外科の中山祐次郎です。コロナ禍でずいぶんご無沙汰してしまいましたが、久しぶりの記事をお送りいたします。

 私生活では初めての子が生まれたり、2018年に出版した小説『泣くな研修医』がテレビ朝日系列でドラマ化されたりと、いろんなことがありました。

 さて、2019年の冬から始まった新型コロナウイルス感染症の世界的流行(パンデミック)。私たちは嫌というほどこの病名をニュースで見聞きし、恐ろしい数の死者を経験しました。290万人を超えるという下手な戦争よりも多い死者なのですから、とんでもない惨禍に世界中が見舞われました。

 そんななか、アジアの島国である我が国の、福島県という一地方でこぢんまりとサラリーマン医者をやっている40歳の私に起きたこと。非常にミクロな視点ではありますが、一医者に起きた経験談として、恥ずかしい失敗も含めて、どうしてもお伝えしておきたいと今、考えています。

 本原稿を書いているのはまだ風が肌寒い2021年3月の中ごろ。コロナウイルスのワクチンを接種した、まさに翌日のことです。これからワクチン接種が全国的に進めば、自然と感染症は終息に向かうかもしれません。2022年の夏ごろにはWHOが終息宣言を出していてくれ、という希望的観測を持ちつつお話をしてまいりましょう。

新型コロナウイルス感染症の拡大による影響は、外科でも決して小さくない。写真はイメージ(写真:123RF)
新型コロナウイルス感染症の拡大による影響は、外科でも決して小さくない。写真はイメージ(写真:123RF)

予想が大きく外れたコロナの感染拡大

 正直なところ、私はこの病気を初め「大したことはなさそうだ」と見ていました。

 この感染症が2020年1月に数人規模で国内に入り、大きな客船が封鎖され、などの報道を見ていて、私は「間違いなく国内で流行するが、死者が多数出るようなことはない」と確信していました。

 医者として理屈で考えると、呼吸器(=肺やのど)の感染症で、ウイルスが原因なのだから、くしゃみや咳による飛沫感染はあるだろう。飛沫感染があるなら、とうてい水際対策で防ぎ切れるものではない。さらに日本の水際対策はザルで、諸外国のように強制的に隔離をしたり外出したら逮捕したりするようなことをしないので、国内に入ることは防げないだろう。

 そう予想しつつ、しかし都会だけでの流行ですむだろう、とも思っていたのです。特に私の住む人口約30万人の福島県郡山市は、観光客が多い街ではなく、強いて言えば東京へのアクセスがまあまあいい(東北新幹線で1時間半程度です)くらいで、あまり危険性を感じていなかったのですね。

 もっと言うと、当時はまだどんな病気か、特に、どれくらい人を死なせる病気かが分かっていなかったので、まあはしか(麻疹)ほどは恐ろしくないだろうし、ちょっと流行しても1シーズンで終わるだろう、と高をくくっておりました。日経ビジネスの私の連載でも、「まあ、大したことはないんじゃないですか」というトーンでした。

 ちなみに私は外科医ではありますが、医者になって11年目に京都大学大学院で公衆衛生を学んで修士号(MPHと言います)を取っており、かつ日本の感染症治療の雄である都立駒込病院で(外科ではありますが)働いていたため、感染症について一定の知識を持っていました。日本感染症学会のICD(インフェクションコントロールドクター:感染管理医師)という資格も持ち、実際に「病院内で院内感染を防ぐ」仕事にも携わっていたのです。

 その立場からも、「大したことはなさそうだけど、まだよく分からないな……」というのが正直なところでした。皆さんご存じの通り、この予想は大きく外れることになります。

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