簡単には増やせない病院のキャパシティー

 イメージとしては、「コップに入れ続けると水があふれる」状態を考えてください。簡単に言えば、患者さんが大量に発生し、その地域の医療のキャパシティーを超えたら崩壊です。ここでポイントになるのは、コップの大きさ(医療のキャパシティー)は決まっており、すぐに大きくすることはできないという点です。

 医療のキャパシティーは、医療業界では「病床数(=ベッド数)」で表現されます。ベッド数を増やすのなら、さっさと病院を建てればよいではないか、あるいはあの潰れそうなホテルを病院にすればよいではないか、と言われそうですが、そういうわけにはいきません。

 ハード面から考えれば、病院は非常に特殊な建物です。酸素や吸引の配管がいたるところに張り巡らされていて、ナースステーションからぱっと各部屋が見えるなど、重症者の急変を見落としづらいような動線になっています。中国があっという間に病院を建てたのは驚きでしたが、新しく建築しなければならなかったわけはこの辺の事情もあるでしょう。

 ソフト面では、医師、看護師などの医療職の人間が必要です。日本の保険医療体制では、多くの病院では「さらに患者を受け入れる」余力がある病院は多くありません。そもそもほぼすべての勤務医が労働基準法を大幅に超える勤務時間を働いている状況で、さらに働けというのは厳しいものがあります。

 一部の公立病院では数字上、ベッド稼働率などで余力があるように見えますが、そもそも業務効率が非常に悪いので余力があるとも言えません。私の肌感覚では、患者さんの受け入れはプラス10%が限界ではないかと思います。

 さらに、必要となる科の医師やその知識のある看護師や臨床工学技士などが増えなければ、病院によっては「余力ゼロ」となるでしょう。

 今回、活躍が期待される専門の科は、軽症者であれば内科、外科、耳鼻科などで対応できますが、重症者はそうはいきません。肺炎治療ができる専門科だと、麻酔科医、集中治療医(少ない)、感染症科医(非常に少ない)、救急医(少ない)、呼吸器内科医といったところです。その手が足りなくなってきたら、全身管理ができるということで他の内科医、外科医も加わることになるでしょう。病院によっては初めから麻酔科医と外科医で診る、ということも十分あり得ます。

感染防御には時間と手間がかかる

 そして、この感染症の問題点は、他の感染症と同じように「感染対策に非常に手間がかかる」という点です。

 ファーストタッチの医師はまず個人防護具をつけ、診察をし、検査をする。検査には特殊な動線が必要で、コンピューター断層撮影装置(CT)検査なども簡単に実施できません。

感染症の場合、医師や看護師は個人防護具をつける必要がある。写真はセルビアの病院(写真:ロイター/アフロ)
感染症の場合、医師や看護師は個人防護具をつける必要がある。写真はセルビアの病院(写真:ロイター/アフロ)

 検査結果が出て、感染しているとなったら、今度はまた特殊な動線で入院し、看護師も感染防御をしながらの対応になります。普通、どんなに少なくても患者と看護師の接触は1日5回はありますし、重症者なら10回、20回と増えます。その都度感染防御を徹底するというのは、通常の診療の2倍以上の時間と手間がかかります。

 さらに悪いことには、「医療従事者が感染してしまう」ことも見込まねばなりません。私の職場で考えても、15人ほどいる外科医のスタッフのうち1人が感染して休むと、通常業務だけでもかなり逼迫します。2人になるとさらに厳しくなってきます。そこに、上記のような追加の業務が増えてくるのです。

 あまりこれまで語られていなかったことですが、少なくとも日本では、病院というところは普段からかなりギリギリでやっているという事実が、この感染症によってあらわになったのです。

 医療業界は基本的に規制産業であり、すべて厚生労働省の計画に基づいて病院数もベッド数も決められています。安倍晋三首相は「〇〇床確保した」など発言していますが、埋蔵金でもあるまいし、その分のスタッフはどう確保したのかととても心配になります。他地域から東京・大阪などに招集をかけるつもりなのでしょうか。

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