皆さん、こんにちは。総合南東北病院外科の中山祐次郎です。今回もまた、前回・前々回に引き続き、新型コロナウイルス感染症のお話です。
日本でもかなり感染者が増え、またお隣の韓国では感染者・死者も急増しているこの感染症。今回は、韓国で働く韓国人医師にメールでインタビューをしましたので、その結果も併せてお伝えします。
韓国でも新型コロナによる感染者・死亡者が増えている(写真=Goldcastle7/Getty Images)
まずはいつもの近況から。2020年3月に入ってから、私の住む福島県郡山市では何度か雪が降りました。今年は当地でも雪がかなり少なかったのですが、久々に車の上に積もった雪を下ろしてからの出勤という日も何日かあったほどです。
勤務先の病院では、100人以上が出席する大きな朝の会議はなくなりました。同僚ドクターたちとも「どうなっていくんだろうね」と話していますが、外科医としては特に手術が減るわけでもなく、ほぼ変わらぬ診療の日々を過ごしております。この郡山は人口30万人のそれほど大きくない街ですが、これまで通り緊急手術も週に数件は続けているような感じです。とはいえイベントは中止が多くなりました。国内の医学学会も軒並みなくなり、病院の歓送迎会まで中止になっております。福島県でも3月7日、初めての新型コロナウイルス感染者が確認されました。
日本以外の国々でも感染者が急増
さて、では本題です。新型コロナウイルス感染症は国内でも徐々に感染者が増え、ヤフーの情報サイトによると、3月9日現在で488人の感染者、7人の死亡者となっています。国内では、感染者が発生していない地方はなくなり、全国で発生しています。世界を見てみるとまだまだ増え続けており、ヤフーの同サイトによると、日本国外の同日現在の感染者数は10万4000人を超え、死亡者数は3571人となっています。
これまでの流れをちょっと整理しましょう。まず19年12月31日に中国から原因不明の肺炎が発生していると報告があり、20年1月9日に新型コロナウイルスが原因であると判明しました。日本では1月28日に中国・武漢市に滞在歴のない初めての国内感染者が確認され、2月11日に世界保健機構(WHO)がこのウイルス感染症を「COVID-19」と名付けました。その後、2月中旬からイラン、イタリア、韓国で患者数が増加していきました。日本でも少しずつ増え、2月28日には北海道で緊急事態宣言が出て、2月29日に安倍晋三首相が小中高生への臨時休校の要請について説明する記者会見を開きました。
こんな状況で、この病気に関するいろいろなことが分かってきました。
2月28日にニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスンという最も権威ある医学雑誌の一つに掲載された論文で、中国の30地域の552カ所の病院から患者1099人のカルテを調べた結果、67人(6.1%)の患者さんが集中治療室に入院するか人工呼吸器を使った治療をし、15人(1.4%)の患者さんが死亡しています。ふーむ、この連載の前々回の記事で、私は死亡率を「今後、軽症の感染者が増える(診断される人が増える)ことが予想されますから、比率としてはもっと下がるかもしれません」と予想していましたが、まあ予想通りですね。
(参考文献「Clinical Characteristics of Coronavirus Disease 2019 in China. Wei-jie Guan, et al. N Eng J Med. 2020」)
保険適用になったPCR検査で注意すべきこと
そしてここ数日のビッグニュースとしては、「3月6日からPCR検査が保険適用となる」というものがありますね。この検査は、現在、唯一の新型コロナウイルス感染症の診断ができるものですが、3月6日より前は保健所の判断で「やってよし」とならなければ検査ができませんでした。これを「行政検査」と呼びます。つまり、現場の医者が「うーん、この患者さんは新型コロナウイルス感染症の疑いがある!」として保健所に連絡しても、「ダメ」と言われることがあったのですね。それが、保険適用となることで保健所を介さずに原則検査を行えるようになるのです。
「いやあ、よかったよかった、これで一安心」でしょうか? いやいやとんでもない。注意点がいくつかあるので、お伝えしておきます。
一つは「どこの病院・クリニックでも検査ができるわけではない」点です。皆さんの近所にあるかかりつけの内科クリニックでは、たぶんPCR検査はできません。検査自体は、鼻や口から細い棒を突っ込んでぐりぐりするというもの。そんなことをしたら当然くしゃみや鼻水が出ますから、検査を行う医師へ感染の危険があります。ですので、「個人防護具」を着用するなどの相応の対応ができるような、ある程度大きな病院でないと検査ができません。郡山市でも、数カ所の大きな病院でしか検査はできないと聞いています。具体的には、都道府県が指定する医療機関のみで行うことになります。ですので、PCR検査を求めて近所の病院に行っても「〇〇病院に行ってください」となるでしょう。
検査結果は間違えることも
そしてもう一つは、こちらが重要なのですが、そもそも「PCR検査の精度自体がとても良いとは言えない」という点です。
これは、どんな検査にも言えることですが、検査というものは「真実ではない結果を出してしまう」、つまり間違えることがあります。その間違いとは、「本当は新型コロナウイルス感染症にかかっているのに、陰性(かかっていない)と検査結果で出てしまう」という間違いです。これを偽陰性といいます。
間違える頻度がどれくらい多いかということですが、これはまだ正確に分かっていません。国立感染症研究所の忽那賢志(くつな・さとし)医師は自身の記事で、「感覚的なもの」と断った上で感度を「70%くらい」としています。
これは、実は感染している10人が検査したら、7人は「陽性(かかっている)」と出るが、3人は誤って「陰性(かかっていない)」と出てしまうということを意味します。
医者として思うのは、これでは大した役には立たないということです。こんな精度の高くない検査を求めて病院に「疑い患者」が大挙しておしかけるのは、恐ろしいことです。
医師から提言、「不必要なら病院に行かないで」
これら2点を鑑みた上で、私から提言しておきます。今、感染を避ける上で最も気を付けたいのは、「不必要な場合は病院に行かないこと」です。
病院には新型コロナウイルス感染症を疑うような、4日以上の発熱の患者さんがたくさん来ており、さらに、そんな患者さんの対応をし続けている事務職員、看護師、医者たちがいます。誰が感染していてもおかしくありません。今、最も感染の危険が高い場所、それはクリニックや病院なのです。
「私の住む県ではまだ感染者は出ていないから大丈夫」という考えもあまりよくないでしょう。発見されていないだけという可能性は十分にあります。
これは何も私だけの考えではなく、厚生労働省も、感染拡大を防止する観点から、高血圧などで定期通院している安定した病状の患者さんに対し「電話などを用いて診療する遠隔診療」ができることを事務連絡で周知しています(厚労省サイトの関連ページ)。くれぐれも、「元気だけどちょっと咳(せき)が出て心配だから、PCR検査を受けに病院に行く」というのはやめましょう。繰り返しますが、今、最も感染の危険性が高くなるのは病院・クリニックです。こんなことは今に始まったことではなく、冬季の待合室でインフルエンザがうつる、そして患者さんからもらってしまった医師から別の患者さんにうつる、ということはよくあったわけですが……。
インフルエンザの報告が減っている
そうそう、インフルエンザといえば今年はインフルエンザ流行がかなり抑えられていることもお伝えしておきましょう。これは皆さんの手洗いやマスクエチケット、イベントや休校措置などが効いている可能性が考えられますが、とても興味深いですね。感染症科医の誰かが論文でも書きそうです。
少し見づらいのですが、赤い太線が今季です。他のシーズンと比べ、少ないのが分かりますね。今シーズンも例年通り12月上旬にはぐっと増えたのですが、今年に入って報告は減っています。
「社会的距離を取る」ソウル市民たち
では、最後になりましたが私の友人の韓国人医師へのインタビューを掲載します。インタビューをした理由は、韓国では感染者数の報告が増えており(3月7日0時現在の感染者数6767人、関連ページ)、日本の少し未来の姿である可能性があると考えたからです。やり取りは電子メールで行い、言語は英語でインタビューしました。下記は私が翻訳したものになります。
Q. どんな病院で働いていますか?
A. 私は、ソウル市から100km離れた小さな街の市中病院で一般外科医として働いています。
Q. ソウルの街はどんな状況ですか? パニックになっていますか?
A. 私はソウルにいないので正確に答えられませんが、ソウルにいる友人に聞きました。ソウルでは、パニックにはなっていませんが、市民はウイルス感染を心配し「社会的距離」を取ることを実践しています。通勤に関しては、公共交通機関ではなくマイカーを使用し、仕事後にはデパートや劇場など混雑した場所へ行くのは控えています。
市場は、不足を心配してマスクを求める人々で一時的に混雑しています。しかし、政府は継続的に追加量を供給し、流通させることを検討しているため、状況は少しずつ改善すると予想されます。
Q. 勤務先病院に、新型コロナウイルス感染症の患者さんは入院していますか?
A. 大邱(テグ)広域市の患者が急増し、その地域の病院のベッドが不足しているため、私の勤務先を含む病院に入院ベッドを分配しています。私の病院の入院患者は、レベルDの防護服を着用したプライマリケア医が担当し、治療しています。現在重篤な患者はいませんが、もし患者の状態が悪化した場合、近くの大学病院の新型コロナウイルス感染症患者専用の集中治療室に転院させる予定です。
大邱の医師たちには過労も……
Q. 医師はパニックになっていませんか?
A. パニック? まさか(笑)。心配はしていますが、パニックというほどではありません。大邱地域は今、最も困難なエリアで、医療スタッフも不足しています。そのため、他の地域から多数のボランティアが大邱に行っています。厳しい状況ですが、落ち着いているとのことです。
Q. 外科医はどういう生活をしていますか? 予定手術は減っていますか?
A. 私の勤務先病院は新型コロナウイルス感染症患者を治療する病院に指定されているため、一般的な病気の入院患者は現在、受け入れていません。感染の可能性を最小限に抑えるため、手術室も閉鎖されています。他の病院では、手術の数はわずかに減少していますが、予定手術を含む手術は通常通り継続する方針です。
Q. 新型コロナウイルス感染症の影響で、病院の機能は弱まっていますか?
A. 私たちの病院の場合、全体的な仕事量は減少しましたが、前述のように、大邱地域の病院や呼吸器疾患を扱う他の病院は極度の過労に苦しんでいます。一方で、病院での新型コロナウイルス感染の可能性を心配し、一般患者の外来患者数は減少しています。医師は、限界はありますが、電話でケアを提供しています。
Q. 今後、どれくらいの期間で感染症は終息していくと思いますか?
A. 予測するのは難しいです。私を含めて楽観的な予測を持っていた人たちは、3月までに落ち着くと予想していましたが、今は感染が拡大しています。多くの人がこの状況が4月末まで続くと予想していると思います。
最後に、この知人の医師から「インタビューの最後にこれを入れてね」とメッセージが来ましたので、日本語と英語(原文のまま)で掲載します。
「韓国と日本の関係が良くなるよう心から願っている、一韓国人より」
“From One of Korean who really want to get better and better between Korea & Japan relationship.”
■修正履歴
4ページ目に「大邸」とあったのを「大邱」に修正しました。お詫びして訂正します。本⽂は修正済みです。[2020/03/15 01:40]
この記事はシリーズ「一介の外科医、日々是絶筆」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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