病院が遠くなるのは避けられない

 良いことばかり書いてしまいましたが、病院再編で気になるのは「近所の病院が無くなるってこと?」という点でしょう。

 これはもうまさにその通りで、厚生労働省が公表したような、診療実績を満たしていない病院は無くなるということになります。ですから、距離という点で病院へのアクセスは悪くなるでしょう。今まで「車で20分」で行けていた病院が、「車で60分」になる。

 これがどの程度のデメリットかは、人によるでしょうし、その地域にもよるでしょう。しかし、例えば巡回バスを毎日出すなど、アクセシビリティを悪くさせない手を打てば、それほどのデメリットであるとは私は思いません。現状の、近所だが疲れた専門外の医者が適当に見てくれるより、ちょっと遠くても元気な専門の医者にしっかり見てもらいたい、そう私は感じるからです。まあ、このあたりは議論のあるところでしょうが……。

なぜ私立病院は公表されないのか?

 追加の論点としていくつかあげるとすれば、「公立病院だけでなぜ私立病院は公表されないのか」があります。8000余りある国内の病院で、公立病院は1500程度。残りはすべて私立です。もちろん厚生労働省は私立も含めた再編を考えているでしょう。が、まずは号令がかけやすく、さらにどれほど診療実績がなくとも公金で潰れることのない公立病院にメスを入れた、というのが実際のところでしょう。

 正直なところ、重要な役割を果たしている公立病院がある一方で、全然、稼働していないのに潰れず縮小もせず、経営努力もしないで税金をじゃぶじゃぶ使っている公立病院があるのも事実です。私立と公立、どちらの病院でも働いたことのある私としては、私立病院の経営努力は想像以上だと感じています。

 日本という国はこれから高齢者が激しく増えていき、一方で総人口は減っていきます。その人口構成の推移を考えたとき、医療費を抑え、そして病院を再編・統合するのはごく自然なこと。日本の医療を俯瞰(ふかん)の目で見る人なら、誰もが同意するでしょう。

 しかし、「この町の病院が無くなる」ということへの反発は非常に強いもの。政治マターにしてしまうと、票数を持つ高齢者が「この町の公立病院は残す」という政治家を勝たせてしまいます。さあ、この「総論賛成、各論反対」の典型のような構図をどう厚生労働省は動かしていくのでしょうか。

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