病院の数が減ると医療の質が上がる?

 さて、これについて私は前出の番組で、こんなフリップを使って、コメントしました。

 「数は減るが質は上がる」

放送直後に若林理紗アナウンサーと
放送直後に若林理紗アナウンサーと

 どういうことでしょうか。まず「数は減る」。こちらは、病院の再編・統合をすれば病院の数は減りますよ、ということです。そのままですね。

 続く「質は上がる」について。これは「提供する医療の質が上がる」という意味です。しかしまた、なぜ病院の数が減るのに質が上がるのでしょうか。

 例えば、私の住む30万人都市、郡山市では、6つの大きな病院があります。そのうちの1つが減るとどうなるでしょうか。残った病院では患者さんが入院できるベッドや検査機器、そして医者が増えます。すると、対応できる病気や患者さんの数が増えることになります。医者が増えますから、緊急手術などの対応もしやすくなるでしょう。また、検査機器が増えるので、より正確な診断が可能になっていきます。

 これはつまり、人員や医療資源が集約され、結果として医療レベルが上がることを意味します。このあたりはあまり伝わりにくいのですが、臨床医の私の感覚では現状より確実に医療の質が上がります。

「救急車でたらい回し」も減る

 例えば、脳出血の患者さんに「今日は脳外科の医師がいないので対応できません。別の所へ行ってください」と言うことが減るでしょうし、さらには「救急車でたらい回し」が減る可能性もあります。十分な医者の数がいて、ベッドがあれば救急車は受け入れることができますから。そして、受け入れる医者の立場からすれば、夜中でも十分な人数の医者や看護師がいて、十分な検査が行えるということは、とても心強いことなのです。

 医療の質が上がること以外にも、この病院再編にはメリットがあります。それは、「医師の働き方改革が進む」ということです。「なんだよ、それは医者の都合じゃないか」と思われるかもしれませんが、病院に勤務する医者は1日5時間以上の時間外労働をし、月に数回は当直という36時間連続勤務をしています。医師の過労死のニュースも毎年のように耳にします。こんな働き方をしている医者がいきなり「働き方改革」をしたら、確実に医療は崩壊しますから、厚生労働省の指示で医者は働き方改革の実施を他業種よりも5年ほど遅くスタートすることになっています(詳しくは「医師なら年2000時間残業すべき?」をご参照ください)。

 こういう状況で私も働いていますが、病院再編があれば医師数が増えますから、今は実質ゼロ交代でやっている勤務をシフト制にすることなどが可能になります。

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