こんにちは、総合南東北病院外科の中山祐次郎です。今回は前回に続き、先日、出版した私の本『がん外科医の本音』から、抗がん剤についての解説をお送りしたいと思います。ありがたいことに出版後、多くの反響をいただいており、全国の本屋さんでもかなり大きく扱っていただいています。前作『医者の本音』がベストセラーだったからでしょうが、気が引き締まる思いです。

 私はといえば、1年間の京都大学での学生生活を経て4月に福島の病院に戻り、再び一介の外科医として働いております。私の得意とする大腸がん患者さんの腹腔鏡手術を中心にしておりますが、それ以外にも鼠径(そけい)ヘルニア(昔は脱腸と呼んでいました)、虫垂炎(昔は盲腸と呼んでいました)なども腹腔(ふくくう)鏡の小さい傷だけの手術でやっています。手術室でも後輩医師への指導というシーンが増えてきましたが、夜も休日もガンガン緊急手術を担当しています。

 さて近況はこの程度にして、本題に参りましょう。

確実に効果が上がった抗がん剤

 抗がん剤は、非常に有効な治療法である一方で、その副作用からネガティブなイメージを持たれていることも事実です。「はきけがつらい」「髪が抜けて精神的ダメージを受ける」などがつらさの代表的なものでしょう。ではなぜ抗がん剤を飲むと髪が抜けるのでしょうか。なぜ副作用があるのでしょうか。

 大ざっぱに言うと、抗がん剤は「がんも、自分の体もどちらも攻撃してしまう」という性質があるからです。ところが最近はそうともいえない面も出てきました。

 抗がん剤は、歴史的に毒ガスから開発されたという経緯があります。この事実をもとに「抗がん剤は危険である」と主張する人がいますが、それは正確ではありません。たとえば、ビンブラスチンやビンクリスチンといった抗がん剤は、観賞用植物であるニチニチソウから作られています。

 抗がん剤が開発されてからの歴史は浅く、まだ50年くらいしかたっていませんが、実に多くの種類が作られてきました。また驚くべきことに、2020年になろうとしている今でも、抗がん剤は30年前と同じ薬をよく使っています。

 一方で、めざましい進歩を遂げているのもまた事実です。よく効くようになり、患者さんが長生きできるようになったのです。私の専門である大腸がんでは、ステージⅣの患者さんは30年前には平均6カ月ほどしか生きられませんでした。しかし最新の研究結果では、平均して約2年半に延びています。これは抗がん剤の進歩と研究のたまものです。この数字は今後も伸びていくでしょう。

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