全4384文字

全身麻酔の後は朦朧(もうろう)とする

 まず1の「術後せん妄による幻覚の可能性」について。

 通常は全身麻酔が終わり病室に帰ってきたタイミングでは、患者さんは朦朧としていることが多く、ときに幻覚を見たりワケの分からないことを叫ぶ人もいます。それを医学用語では「せん妄」といい、非常に高頻度で遭遇する現象です。一時的なことが多く、数時間で改善することが多いためそれほど問題にはなりません。

 ちなみに、後で患者さんはそのことを覚えていません。患者さんがご家族からその様子を聞き、「先生、私ずいぶん大暴れしちゃったみたいですみませんでした」などと謝られることは外科医をやっていますと日常茶飯事です。

 本件では、弁護側から幻覚の可能性が主張されていました。

 通常、手術後の患者さんが病室に戻ってからは、医師が創のチェックや全身の状態を見たり、看護師が頻繁に出入りをします。およそ4~5人の病棟看護師が患者さんの帰室のタイミングでばっと集まり、一斉にいろいろと処置や血圧測定をするのです。その中で、わいせつ行為が行われたと疑われていました。

状況的にも考えづらい

 医師の通常の感覚を言うことの意味がどれだけあるかは分かりませんが、私ならば手術後の患者さんにわいせつ行為をするなど気分の意味から想像を絶します。朦朧としているとはいえ、本人は完全に意識がないわけではありませんから、発覚する可能性は高いでしょう。

 また、帰室直後のあのようなランダムに人が声掛けなしに出入りする状況でわいせつ行為などしたら、誰かに見られる危険性が非常に高いと思います。そういうタイミングだったわけです。

 判決では、「A(筆者注:被害女性A)は麻酔覚醒時のせん妄の影響を受けていた可能性があることなどからすれば、その証言の信用性には疑問を差し挟むことができる」とし、せん妄の可能性を認めています(m3.comの「麻酔科医、精神科医らの証言-乳腺外科医裁判判決文の詳報◆Vol.3 2019年2月20日東京地裁無罪判決」より。なお記事を読むには会員登録が必要です)。