全4626文字

影響力の強い人ほど発言に注意が必要

 これに答える前に大前提として、ダルビッシュ氏のような有名人で影響力の強い人は、たかがツイート一つでも十分に気をつけて発信をせねばならないと私は考えています。ダルビッシュ氏のフォロワーは200万人を超えておりますから、単純比較すべきではないかもしれませんが、その数は産経新聞の発行部数や、ほとんどすべての地方紙の部数を超えているのです。

 少し前には、ブロガー・作家として高い知名度を持つ、はあちゅう氏が同様に「IgGを検査することで食物アレルギーが分かる」とオススメしていたものが問題になりました(ご本人、蒸し返してすみません)。

 これは、実は意味がない検査だと言われております。日本アレルギー学会でも「(食物抗原特異的)IgG抗体検査を食物アレルギーの原因食品の診断法としては推奨しない」と、「重要なお知らせ」の中に明記しているほどです。

 このように、影響力の強い有名人がうっかり誤った医療・健康情報を発信してしまうことは避けるべきです。有名人にはそういう責務があるのだろうと思いますが、医療のバックグラウンドを持たない人にそういう責任を求めることもまた、一方で酷なお話です。

 その健康情報の正しさを評価する能力を専門的にはヘルスリテラシーと言いますが、これを培うことは簡単ではないでしょう。残念ながら、医療界で最も高度な知識を有すると考えられている医師であっても、その医療情報の正しさを評価することは容易ではないからです。恥ずかしながら12年間、外科医をやってきた私も、今年京都大学でそういった勉強を専門的にするまでは十分ではなかったと反省しています。

 ですので、有名人の皆さんにお伝えしたいことは、「健康関連の発信はしない」ことが最も単純なリスク回避ですよ、ということです。もしくは、かなり信頼のおける医師に相談した上で発信すべきです。炎上くらいならまだ良いですが、正しくない健康情報を発信すると最悪の場合、人が亡くなってしまいますからね。

筆者が医師や大学教授のモノまで……

 さて、話を戻し、ダルビッシュ氏の「いわゆる"トンデモ"と言われる本が世の中にいっぱいあるわけなんですが、なぜそのような本って売っていいんだ」に答えることにしましょう。こんなことを書いたらもう出版依頼が来なくなるかもしれませんが。

 第一に、「誰がトンデモ健康本を書くのか?」について考えましょう。

 私はこの1年で本を2冊出版したこともあり、最近ずいぶん本屋さんに行って多数の本を見ています。そして付き合いで朝日新聞も購読していますので、本の新聞広告はほぼ毎日、目を通しています。

 すると、あるわあるわ、怪しいタイトル。本来ならば具体的なタイトルを挙げたいところですが……。代わりと言ってはなんですが、こんなものが目立ちます。

・長生きしたければ〇〇しなさい
・健康になりたければ〇〇しなさい
・がんを治した人たちがやっていた〇〇

 本当にあきれるくらい、似たタイトルが多いものです。いちいち全て読んでいるわけではないのですが、立ち読みレベルでちらっと見るとやはり、根拠がない、あるいは非常に弱いものを論拠としてそれを誇大にしている本が目立ちます。

 大変残念なのは、それを医師、しかも大学教授などが書いている場合があることです。一般の人は「おお、医師が/大学教授が書いているなら、まさかトンデモ本ではないだろう」と思いますよね。しかし、医師や大学教授であっても、「その情報がどれだけ確からしいかを判定する能力」を十分に持っているかどうかは全く別の問題なのです。医師が筆者であっても怪しげな本になってしまうのは、このあたりが理由になります。

 そういう本が多数出されている結果、悲しいことに、医師たちの間では間違いなく「一般の方向けの本を書いている医師=怪しい医師」というイメージがあります。