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当直続きの医師は“ほろ酔い”状態

 さて、こういった「医者の超長時間勤務」を書くと、「ワシのころは当然だった」という御仁がいます。美容外科医で高須クリニックの高須院長は、こうツイートをしていました。

 「50年前僕が医者になったころは大学病院の無給の医者は白衣来て靴はいたまま病院に寝泊まりして当直して急患を診るバイトを普通にやってました。これが立派な医者になる修行だと思ってました」

 そう、昔の医師は今より遥かに過酷な労働条件で働いていたのです。そして、それを「立派な医者」として誇りに思っていたのです。大変な時代だったと思いますし、当時の医師には心から敬意を表したいと思います。どちらかというと実は私も「医者たるもの、24時間病院に張り付くべし」派です。

 しかしこのような環境で、果たして高い質の仕事が保てているのか、という疑問を置き去りにしてはいけません。それを間接的にとはいえ示した研究があります。「忙しい当直後と飲酒後の神経行動学的パフォーマンスの比較(Neurobehavioral Performance of Residents After Heavy Night Call vs After Alcohol Ingestion)」というもので、忙しい当直が続いた研修医は、ほろ酔い(0.04~0.05g%の血中アルコール濃度レベル)と同じくらい判断能力が落ちたと結論づけています。

 この結論は、考えてみれば当たり前ですよね。昔は高度な機器もなく、人手も足りなかったため、医師がベッドサイドに張り付く時間が長ければ長いほど質は上がったでしょう。が、今は交代医師がいるのなら交代したほうが質が高いのです。ノーブレス・オブリージュは大切ですが、本当に患者さんのことを考えるならば質を高める方法を考えたい。私はいま、そのような考えに至っています。

「他の医師に触られたくない」

 しかし、医師には「長時間労働をしたい」こんな理由もあります。外科医をやっていると、こういう感覚にとらわれるのです。自分がメスを入れた患者さんを、他の医師に触られたくない、と。そして入院から退院まで、全て自分の責任で、全て自分の持つ最高の技術で治療をしたい、と。

 このコンプリート欲のような、不思議な感覚を持っている外科医は少なくないでしょう。まるでその覚悟だけがメスを持つものの資格である、と言わんばかりに、です。もちろん外科以外でも、患者さんを自分だけで診たい「囲い込み」をしたくなることはあるようです。しかし、この欲を手放すこともまた、客観性を保ち元気な医師による医療の提供ができますから、実は診療の質を上げることなのだと私は思っています。

 さらにはこういう視点もあります。へき地や離島などの医師の少ない地域では、医師の労働問題などを議論する以前に、とにかく体を張って医療を維持しなきゃならない、という視点です。そうしてギリギリの生活をしながら、寝る時間以外ずっと白衣を着ている医師が日本中にいることもまた事実です。患者を奪い合うような医師の多い地域と、ギリギリの医師数で維持する少ない地域の格差もだいぶ大きくなってきました。ある程度の強制力をもった医師配置が、これからは必要なのかもしれません。

 前々回の記事では、「無給医」という、給与を貰わずに働く医師についてまとめました。今回は超長時間労働です。まるで200年ほど昔の話をしているような錯覚に陥りますね。これらの問題を解消するには病院統廃合と医師数増加がカギだろうと私は考えています。しかし、私立と公立が入り乱れ、医師数増加に反対する日本医師会があり、医療費はこれ以上増やせない財政状況で、一度に根本的解決をすることは難しいと私は見ています。皆さまのご意見もぜひ、お聞かせください。

 それではまた次回、お会いしましょう。