(写真=President Joe Biden Office/ZUMA Press/アフロ)
(写真=President Joe Biden Office/ZUMA Press/アフロ)

 主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)はウクライナのゼレンスキー大統領の電撃参加で一挙に風景が変わってしまった。広島開催で核軍縮も重要課題にすることは当初から予定していたが、さらにそこにウクライナ問題が急浮上した。共同文書以上にリアルの政治ドラマが繰り広げられて、メディアの目が奪われることになったのだ。

 その結果、本来の重要テーマであった「中国にどう向き合うか」の影が薄くなったのは否めない。今回のサミットでは経済安全保障とグローバルサウスへの関与をクローズアップさせたが、これらは中国を念頭に置いている。

 G7サミットはこれまでも事前に外務、財務、貿易、環境エネルギーなど各分野の閣僚会合を入念に積み上げて、その成果物を編集して最終ゴールの首脳宣言になっていく「予定調和のプロセス」だった。日本が議長国のときにはお国柄のせいか、殊の外このプロセスが緻密に仕立て上げられていく。

 今回は保健、デジタル、科学技術、農業などの閣僚会合も多数設定して、その成果も盛り込もうとするので、勢い首脳宣言も膨大なものになってしまう。ただし内容はそれまでの閣僚会合の共同声明を丹念に読めば、その繰り返しであることが分かる。

 今回のサミットは、かつてのトランプ前米大統領のような予測不可能な首脳もいない。予定調和はシナリオどおりに進めば、「G7の結束」こそが成果であると誇示する目的は達成される。

 こうした成果物の首脳声明の字面だけを表面的に追って、大本営発表の説明を聞く報道も多いが、それでは実態をつかめないのがG7サミットだ。これまでの閣僚会合での各国の綱引きがどうだったか、背景の国内での政治力学がどうなのか、その結果、どういう具体的な政策につなげようとしているのかを踏まえる必要がある。

 結論から言えば、一皮むけば各国の温度差があり、「薄氷の結束」と言える。そこに対中の本質があり、今後の重要な課題が潜んでいる。

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