
日韓は関係改善に大きくかじを切った。3月16日、日韓首脳会談の直前に、日本政府は半導体3品目の輸出管理について2019年以前に戻すことを発表した。刺さっていたトゲが抜けたことを好機に、首脳会談では半導体分野での協力を念頭に、日韓の「経済安全保障に関する協議の創設」で一致した。
半導体3品目は元に戻す
まず輸出管理の発表では、日韓の政策対話を実施して、半導体関連の3品目について韓国の輸出管理に改善が認められたとしている。直前に対話を慌てて行った感は否めないが、もともと、3品目については正常な取引が積み上がってくると元の包括許可に戻すのが自然で、これまでも「解決は時間の問題だ」と指摘してきた。
関連記事:日韓首脳会談でも続く「誤解だらけの対韓輸出管理」(19年12月27日)。
ただし、それを打ち出すタイミングは最悪だ。これまで元徴用工の問題に対する報復措置だと反発していた韓国に対して、日本政府は一貫して別問題と主張していた。これでは誰が見ても両問題がリンクしているのを認めたと受け止める。問題が解消されているならば、何故もっと早く対応しておかなかったのか。
併せて、当時問題となった「不適切な事案」の再発防止も講じたとされる。3品目について輸出管理を個別許可にした理由は、日本から韓国に輸出された半導体材料に大量の行方不明が判明して、中国などへの横流しの疑惑があったからだ。再発防止策は当然必要だ。
厳格化措置のもう1つの柱である、グループA(旧ホワイト国)からの除外についても韓国は解除を強く求めていたが、対話を継続するとしている。当然ではあるが、この点は評価できる。もう少し対話を重ねて、制度の確認もさることながら、輸出管理当局同士に信頼関係が必要だろう。さらに韓国が半導体に関して輸出管理をきちっと行っていることは、対中国という点で以前にも増して重要になっている。
「刺さっていたトゲ」と言ったが、これはあくまで感情論であって、実態は支障になっていたわけではない。日本による措置は輸出管理の世界では大きな問題だが、両国の半導体ビジネスに支障になるとして大騒ぎするような問題ではない。それは、元から輸出管理の優遇措置がない台湾との間でも半導体ビジネスが円滑に行われていることを見れば明らかだ。
むしろ、韓国にとっては一連の問題が「政治的なメンツ」になっていた。当時、「半導体の供給網に大打撃」と不安をあおった論者や報道の“空騒ぎ”に韓国が過剰反応したことは、これまでも繰り返し指摘してきたところだ。
関連記事:韓国への輸出管理措置発動から3年 やはり“空騒ぎ”だった?(22年7月1日)。
なお、今回の発表に関連して、「韓国側も譲歩した」と報道されている2点はいずれも「歩み寄り」と見せるためのものだ。韓国による、日本の措置に対する世界貿易機関(WTO) 提訴の取り下げも同時に発表されているが、提訴している対象の措置がなくなったのだから、当たり前のことにすぎない。
日韓の防衛機密を共有する軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の“正常化”もそうだ。これは、文在寅前政権が輸出管理措置への報復として協定破棄を日本に通告した。しかし米国の圧力で破棄手続きを“停止”し、現在も情報交換は行われている。これを完全に正常化するといっても、もともと筋違いで、韓国の“独り相撲”にすぎない。
この記事は会員登録で続きをご覧いただけます
残り1775文字 / 全文3182文字
-
【春割】日経電子版セット2カ月無料
今すぐ会員登録(無料・有料) -
会員の方はこちら
ログイン
【春割/2カ月無料】お申し込みで
人気コラム、特集記事…すべて読み放題
ウェビナー・音声コンテンツを視聴可能
バックナンバー11年分が読み放題
この記事はシリーズ「細川昌彦の「深層・世界のパワーゲーム」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?