岸田首相が訪米し実施された日米首脳会談(写真:The New York Times/Redux/アフロ)
岸田首相が訪米し実施された日米首脳会談(写真:The New York Times/Redux/アフロ)

 米国による中国への先端半導体輸出規制に日本、オランダが同調することに合意したと伝えられている。ただしいずれの政府からも発表はない。米国は昨年10月に規制を打ち出して以来、先月の首脳会談も含めて両国に同調を求めていた。合意できたことは米国にとって大きな外交的成果だが、これは欧米メディアの取材報道によるものだ。今回、なぜ政府は発表しなかったのか。

 米国によると日本、オランダ両国から発表しないよう強い要請があったという。バイデン政権としては米国産業界、議会との関係を考えれば、合意をアピールしたいのはやまやまだ。ところが日本、オランダは中国の反発を避けるためにできるだけ「抑制的」にしたい。欧米メディアも「日蘭は中国に対する米国の政策に署名したとみられるのを懸念している」と指摘している。

米国が「先走った」国内事情

 これまで日本政府は「外交上のやりとりなので、コメントは控える」としゃくし定規な対応を繰り返していた。他方でバイデン政権は国内向けに日本、オランダに同調を求めているとしきりにアピールした。その結果、メディアは「米国の規制に追随させられる日本」という単純な図式の見方になってしまった。

 一方オランダは率直に不満をあらわにしていた。貿易大臣は「米国と長い間話してきたが、昨年10月に米国が新規制を持ち出して議論の枠組みが変わってしまった」と困惑を正直に吐露していた。日本政府も恐らく似た思いだろう。なぜか。

 実はオランダが示唆するように、先端半導体の対中輸出規制を日米欧で連携しようと、2年近く前から水面下で話し合いをしてきていたのだ。しかしバイデン政権、とりわけ担当する米商務省事務方の調整力不足もあってか、なかなかまとまらない。しびれを切らした対中強硬の米国議会が、2022年11月の中間選挙を控えて圧力をかけ、バイデン政権は仕方なしに米国だけ“先走って”規制を打ち出した。

 そうした実態にもかかわらず、レモンド米商務長官は「日欧に追随を要求する」と平然と上から目線で発言して、オランダもさすがにカチンときたのだろう。バイデン政権もホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)が協議に乗り出すに至った。

 さまざまな発言からの裏事情の解説はそれぐらいにして、規制の中身に話を移そう。

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