IPEFの閣僚級会合で集合写真に納まる各国の閣僚ら。左から2人目は西村経産相(写真:共同通信)
IPEFの閣僚級会合で集合写真に納まる各国の閣僚ら。左から2人目は西村経産相(写真:共同通信)

 米国主導による新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」が正式に交渉をスタートすることとなった。閣僚による対面での会合で、4つの交渉分野ごとの方向性を示した閣僚声明も合意された。

 台頭する中国を念頭に、米国をアジアに関与させる戦略的な意味から評価すべきだろう。ただし中国対抗色が出ることを嫌うアジアの参加国に配慮して、合意した閣僚声明にはそうした色彩はない。「米国主導」「ルール作り」とメディアは報道するが、果たしてその内実はどうか。

アジアの国々の“実利”は何か

 カギはアジアの参加国にとって”実利“(経済的なメリット)は何かだ。IPEFを主導するに当たって、バイデン政権は関税引き下げによる貿易自由化を国内の抵抗もあるのでそもそも排除している。アジアの参加国にとって米国市場にアクセスできるメリットがない。それ故にこれらの国々をつなぎ留めるためには、それに代わる“実利”を示す必要があるのだ。

 交渉分野の①貿易 ②サプライチェーン(供給網) ③クリーン経済 ④公正な経済、のうち実利の可能性があるのは②と③ぐらいだ。

 サプライチェーンでは半導体や医療物資などの供給網に深刻な事態が生じたときの緊急時に情報交換、連絡体制を作ろうというものだ。在庫を融通することも今後の検討課題だが、自国内への供給を優先するのが当たり前で、当面は情報交換ぐらいが関の山だろう。

 こうした情報共有は日本が既にASEAN(東南アジア諸国連合)やインドとの間で具体化に取り組んでいる。それをIPEF用に仕立て直したものだ。

 「クリーン経済」はネーミングが正直わかりにくいが、要するに脱炭素のためのインフラ投資を支援しようというものだ。この分野の閣僚声明にキーワードとして日本が盛り込んだのが「トランジション(移行)」だ。

 アジアの国々の多くは当面は化石燃料に依存せざるを得ず、一足飛びに再生可能エネルギーにシフトすることは無理だ。それまでの移行期にはアンモニアや水素などを活用しながら現実的な対応でつないでいくことが必要だ。そうした投資にインセンティブをつけて支援しようというもので、旗振り役は日本だ。

 この日本の考えには多くのアジアに国々が賛同している。問題は米国で、ケリー大統領特使(気候変動問題担当)をはじめとする急進的な環境派がいまだ理解をしないことだ。そこでIPEFに「移行」を盛り込んで、米国の考え方を変えさせられるか、今後の日本の役割は大きい。

 これら二つの分野はアジアに国々にとって実利があり得る取り組みだが、いずれも日本が既にアジアにおいて仕掛けた取り組みを仕立て直ししているのが実態だ。日本に期待されている「米国とアジアの橋渡し役」とはこうしたことを意味する。

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