先週は日米首脳会談、インド太平洋経済枠組み(IPEF)の発足、日米豪印4カ国の枠組み(Quad、クアッド)の首脳会合という一連の大きな動きがあった。これらをバラバラに論じていては、大きな国際経済秩序の潮流を見逃すことになる。全体を俯瞰(ふかん)して見る目が必要だ。今後の見通しも含めて見てみよう。

(共同通信)
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重層的な経済安保の枠組み

 まず、掲げる“旗印”がこれまでの「貿易の自由化」から「経済安全保障」へとシフトしている。これは米中対立による分断という地政学的な状況を背景としている。そしてさらに「重層的な全体像」が浮かび上がる。

 日米間においては閣僚レベルでの経済版「2プラス2」、日米にオーストラリア、インドを加えた4か国によるクアッド、さらにそこに韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)を加えたIPEFだ。確かに参加国は同心円状に広がって重層的だ。

 しかし誤解してはならない。中身は決して同質のものを拡大しているわけではない。経済安全保障の内容は多様で、それぞれ経済安全保障のメニューを「中国への対抗」色の濃淡で使い分けているのだ。

日米は経済版2プラス2がカギ

 今回の日米首脳会談でも経済面では中国を念頭においた経済安保の協力が中核になっている。そしてそれを担うのが7月開催で合意した閣僚レベルでの「経済版2プラス2」だ(参照:日米首脳会談、「経済版2プラス2」に込められた思惑を読み解く

 先進技術を有する日米においては、中国を念頭において戦略的な技術を「育て」「守る」ことが焦点になる。そのため半導体やサイバー監視システムの輸出管理や次世代半導体の研究開発での協力を打ち出している。また先般成立した経済安保推進法で取り組む基幹インフラのセキュリティーや量子分野などでの研究も「経済版2プラス2」で日米の協力を進めていくことになる。

 この中で注目すべきは、「サイバー監視システム」の輸出管理を日米首脳で合意したことだ。これについての報道がほとんどないのは、その意味が理解されていないからだろうか。かつて「人権理由でのハイテクの輸出管理に欧米と同様に日本も乗り出すべきだ」と指摘したが、これはそれを意味する、注目すべき出来事だ。

 今回の首脳会談の結果を受けて、近々外為法の制度改正がなされるだろう。この結果、日米欧が足並みをそろえて輸出管理を行うことになり、今月末の主要7カ国(G7)首脳会議に成果としてつながっていくだろう。

クアッドの不安は次の議長国・豪

 クアッドの最優先の目的はインドをつなぎ留めることだ。戦略的自立を志向するインドに配慮して、安全保障の協力までは突っ込めない。インドは貿易の自由化もダメ、安全保障の協力もダメ、となると接着材は経済安保にならざるを得ない。

 今回、議長国の日本はインドが関心を示す次世代通信網(5G)や半導体の供給網、サイバーセキュリティーの協力など経済安保のメニューを用意して、インドの取り込みに腐心した。そのうえで中国漁船の違法操業への対処などを目的とする海洋状況把握など、より安全保障色のあるメニューもじわりにじみ出す工夫もしている。

 問題は来年の議長国・オーストラリアだ。伝統的に対中融和である労働党の新政権がどういう対中姿勢で臨むかだ。世論の対中感情が悪化している中で、選挙戦では前政権の対中強硬方針を継続するとしているが、選挙戦術としての言葉は当てにならない。アルバニージー新首相は就任翌日にクアッド首脳会合で外交デビューし、クアッドの重要性で協調して見せたが、果たしてそれが本物かどうか。実際の行動を見極める必要がある。来年のクアッドの議長国だけに、今年の日本のような知恵出しを果たして期待できるだろうか心配だ。

 中国は豪州の新政権を切り崩しのターゲットとするだろう。環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟に向けた働きかけにおいても要注意だ。

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