(写真=AFP/アフロ)
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 5月23日、岸田文雄首相との日米首脳会談を終えたバイデン米大統領は、「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の発足を正式発表した。中国は地域包括経済連携協定(RCEP)の発足に続いて、環太平洋経済連携協定(TPP)への加入申請など地域的な影響力を強めている。そうした中で米国が「アジアへの関与」を強めること自体は地政学的に重要だ。

 昨年10月にバイデン大統領がこの構想を発表して以来、関係国と協議を重ね、ようやく「中身の議論を開始する」スタートラインに立った。しかし、ゴールは果たしてうたい文句どおりの「新たな経済圏」になるのか、政府関係者の多くは懐疑的だ。

日本は橋渡し役

 発端はバイデン政権に対する議会からの厳しい批判だ。バイデン政権は中国の積極的な攻勢にまるで無策だと指摘される。一方、米国内の世論は「自由貿易こそ自分たちの雇用を奪う諸悪の根源だ」と貿易自由化への反対が根深い。「TPPへの復帰」は国内政治的にはあり得ない選択だ。そこで苦肉の策としてひねり出したのがこの構想だ。

 これに対して、アジアの国々の反応は概して冷めている。

 トランプ前大統領がアジアでの国際会議を相次いで欠席してアジア軽視の印象を与えた。それだけにバイデン政権がアジアに目を向けること自体は率直に評価する。しかし米国がルールを押し付けることへの警戒感は強い。将来政権が代わればどうなるか分からないと、米国のアジア政策に対する一貫性のなさへの不信感もある。

 さらに中国への対抗が前面に出れば、米中の間で“踏み絵を踏まされる”ことを殊の外嫌う。とりあえずは米国の出方を見極めようとの姿勢だ。

 そうした中で日本はどうか。日本政府関係者の大方の受け止め方はこうだ。

 「米国のTPP復帰を今後も求めるのが正論だが、今はそれを言っても『ないものねだり』だ。それまでの間、どうやってつないでいくかだ。しかもせっかく、米国がアジアに関与しようとしているのに、水を差すわけにはいかない。アジア諸国がこれに見向きもしなければ、喜ぶのは中国。米国主導といっても苦し紛れの提唱で中身も定まっていないので、日本が中身を誘導すべきだろう」

 そこで日本は、アジアと米国の“橋渡し役”を担うことになる。まずは米国には注文を付ける役割だ。そこで欠かせないのが、米国にありがちな“上から目線の押し付け”を避けること、さらに、「交渉ではなく議論」をするとのソフトなアプローチをすべきことだ。

 こうした注文を米国に対して繰り返した。一方、アジア諸国には「議論に参加ぐらいはしてはどうか」と呼び掛けた。

 米国もバイデン大統領による発表直前までアジア各国に必死に働きかけたようだ。ふたを開けてみると、最後まで慎重だったインドも含めて13カ国の参加となり、面目を保ったようだ。

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