
ロシアによるウクライナ侵攻が深刻化する中、西側諸国によるロシアへの経済制裁が発動された。資産凍結、金融制裁の他、ハイテク製品の輸出規制に米国は日本、欧州連合(EU)と協調して乗り出した。ここではこの輸出規制に焦点を当ててみたい。
半導体、コンピューター、センサー、レーザー、航空機部品など、国際レジームでの規制品目に加え、上乗せした品目を原則不許可にする事実上の禁輸だ。日本もロシアを北朝鮮並みの厳格な扱いにした。
こうした動きは単にウクライナ侵攻に対する対ロ制裁というだけにとどまらない。「冷戦後の秩序の作り替え」にもつながるものだ。そこには中長期にわたる国際的な構造そのものを変える本質が潜んでいる。
歴史の時計の針は逆戻りか
冷戦期において経済面での象徴であったのが、対共産圏輸出統制委員会(ココム)であった。冷戦が終結してココムを廃止し、冷戦後の世界に対応して仕立て直したのが輸出管理の多国間枠組み「ワッセナー・アレンジメント」だ。これはテロとの戦いを念頭に、テロ支援国家などの懸念国での武器の過剰な蓄積を阻止する仕組みだ。私自身、この国際レジームづくりに携わっていた。
当時、最大の懸念はイラン、イラク、リビア、北朝鮮であった。ロシアは東欧諸国とともに、このレジームの立ち上げから参加することとなったが、これらの参加にとりわけ熱心だったのが欧州だ。欧州にはロシアが脅威から市場、パートナーに変わるとの高揚感さえあった。ついには主要7カ国(G7)にロシアが参加してG8にさえなった。
そうした流れを変えたのが、2014年のロシアによるクリミア併合だ。ロシアは参加資格を失い、G7に逆戻りした。そして今回、冷戦後の秩序の一つである「輸出管理の国際レジーム」においても、冷戦期におけるココムへ時計の針が逆流したようだ。とうとうロシアは国際レジームのメンバー国から北朝鮮と同列の“懸念国”になってしまったのだ。
こうした措置は短期的にはロシアにとって打撃になるが、中長期的には中国依存を高めさせる結果になるだろう。今後、ロシアは半導体などハイテク製品について中国からの供給に依存せざるを得ない。
ロシアの軍事用途の半導体は、華為技術(ファーウェイ)のスマホ用途のような最先端の半導体ではなく、中国も供給できるレベルが主たるものだ。現在は中国国内の半導体自給率が20%にも届かないため生産能力の増強に奔走している状況だが、今後は中国国内に優先供給しながらも、ロシアの軍需産業を中国に依存させる方向に動くだろう。
一方、国際レジームは近時の中国の軍民融合、技術覇権の動きに対して十分対応できていない。そもそも冷戦後の輸出管理の国際レジームの目的ではないので当然と言えば当然だ。そこで中国に対しても半導体の製造設備など日米欧の有志国で輸出規制を強化する動きが水面下で進行している。こうした結果、国際レジームの性格も「テロ国家への軍事技術の拡散防止」から「中国への技術流出防止」へと変質する兆しも出てきているのだ。
ロシアへの事実上の禁輸措置と相まって、今後ロシアへの供給支援が強まることが予想される中国に対してどういうルールを作っていくかが、次に日米欧が直面するテーマとなる。
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