新型コロナウイルスをきっかけに、日本のワクチン開発・製造がいかに脆弱かが露呈した。日本はワクチン開発に出遅れ、国内で接種する新型コロナのワクチンのほとんどを輸入に依存した。そのリスクは日本の経済安全保障に直結する。そこで今回の経済対策の一環として、国産ワクチンの開発・製造の強化に約5000億円が盛り込まれた。
遺伝子技術による創薬手法の発展で、ワクチン開発の手法が大きく変化している。メッセンジャーRNA(mRNA)というバイオ技術を活用した新しいワクチンが登場し、今後の主流になるといわれている。国家の危機管理として、こうした新たな創薬技術を用いたワクチンの国内での開発・生産の必要性が再認識された。
そうした中で、本稿で注目したいのは生産体制の強化だ。

ワクチン生産の仕組みに“知恵”が必要
感染症のワクチン生産はパンデミックが起こって初めて必要になる。製造設備の稼働は、感染症がどれだけ流行するかに左右されるため、収益の見通しが立ちづらい。流行しなければ無駄な設備を抱えてしまう。平時の設備維持は企業にとって大きな負担で、経営を圧迫する。いくら初期投資に補助金が投入されても、投資に二の足を踏むだろう。
かつて厚生労働省は、10分の10の補助率の予算で設備投資を促したが、製薬会社は10年間使わないまま設備を維持し続け、大きく損失を被った苦い経験がある。
報道によると、今後、感染症法を改正して、ワクチンを含め医療物資を対象に生産の要請・指示ができるよう検討が進められているという。新型コロナ禍において、米国は1950年の朝鮮戦争下での戦時法制である国防生産法を発動して、米ゼネラル・モーターズ(GM)に緊急に人工呼吸器を生産するよう命令した。
日本にはそうした強制的に生産させる戦時法制はない。幅広い医療物資について、「有事の最終手段」としての伝家の宝刀を持つことも必要だろう。「有事の最終手段」というのは、憲法で保障された「営業の自由」との関係もあって慎重であるべきだからだ。
ただし生産を指示するのはいいが、稼働させる工場がなければ、指示を出しても空振りになる。ワクチンの場合、指示する権限よりも大事なことは、有事に生産が可能となる生産能力を持つことだ。
そこで出てきた知恵が「平時と有事の両用システム」だ。平時には収益を上げられるバイオ医薬品の製造をして設備と人材を維持し、いざ有事になるとワクチン製造への切り替えを要請する。そうした両用システムの設備投資を手厚い補助金で支援する。有事の切り替え要請に従わないと補助金を返還しなければならないので、実効性も期待できよう。「営業の自由」との関係という厄介な問題も回避できる。
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