バラマキ批判もある過去最大の55兆円超の経済対策。11月26日、補正予算案が閣議決定された。金額の規模や経済効果の報道は毎回繰り返される光景だが、そこには本質的な意味はない。

 しかしその中には注目すべきものも盛り込まれている。「経済安全保障という名の成長戦略」だ。

 目玉は戦略物資の国内生産基盤の強化だ。先端半導体ばかり注目されているが、電池、ワクチンも後に続く。もちろん「経済安保」の名目で産業支援を野放図に広げるべきではない。しかしこれらは米バイデン政権がレアアースとともにサプライチェーンの強靭(きょうじん)化をめざす最重要の4分野として取り上げたものだ。欧州も類似の動きを示している。対する中国も国産化、自給率の引き上げの国家目標に躍起になり、「経済の武器化」の脅威を高めつつある。

 メディアでは個々の政策をバラバラと切り売り報道しているので、全体像がなかなかつかみにくい。そこで本稿では「経済安保の産業戦略」の全体像を順次見ていくことにしよう。

主戦場・半導体の綱引きはし烈さ増す

 経済安保の産業戦略の中心は半導体だ。米中対立の中で、両国はそれぞれ5兆円を超える支援策を通じてなりふりかまわない半導体産業の囲い込みに動いている。

台湾積体電路製造(TSMC)は日本だけでなく米国でも工場を建設する(写真:AP/アフロ)
台湾積体電路製造(TSMC)は日本だけでなく米国でも工場を建設する(写真:AP/アフロ)

 米国では半導体受託製造の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)がアリゾナ州に新工場(回路線幅5ナノ)を建設するのに続き、米インテルも同州での工場建設を表明済みだ。さらに11月24日には韓国のサムスン電子がテキサス州に最先端(回路線幅3ナノとなる見込み)の半導体の工場建設を発表した。これで大手3社のそろい踏みだ。いずれも米国政府による巨額の補助金期待と、米アップルをはじめとする米IT企業の需要の磁力がその背景にある。

 一方、中国では半導体産業への大胆な政策的支援もあって投資が急拡大しており、日本企業による製造装置、素材の供給は輸出、現地投資ともに活況を呈している。

 こうした中、韓国のSKハイニックスが中国・江蘇省に半導体メモリー工場を稼働させているが、この中国工場に最先端の製造装置であるEUV(極端紫外線)露光装置の納入を、米国は阻止した。

 欧州でも他国に半導体を依存する状況への危機感が急激に高まっている。9月には「新・欧州半導体法」の制定を宣言し、欧州内での先端半導体のエコシステムを構築するとして、「産業囲い込み」に参戦してきている。

 日本の装置や素材産業は足元の半導体不足と中国市場での半導体投資の高まりで増産に次ぐ増産で活気づいている。しかし、こうした足元の活況を喜んでいるだけでは近視眼的だ。

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