この連載で5月以来累次批判してきた、日本の「人権問題」への対応。後ろ向きで主要7カ国(G7)の中で孤立しつつあった日本もやっと一歩前に踏み出した。
衆議院選挙が佳境に入った10月22日、G7の貿易大臣会合が英国で開催され、共同声明が採択された。焦点は6月のG7 首脳会議から託された「貿易と人権」、つまり「強制労働問題での共同行動」だ。名指しこそ避けているが、念頭にあるのは中国の新疆ウイグル自治区における強制労働だ。
「逃げ腰」から「共同行動」に踏み出す
6月のG7首脳会議の共同声明にはこう記されていた。
「グローバルなサプライチェーンにおける強制労働の根絶に向けて、協力と共同の取り組みを強化する分野を特定する作業をG7貿易大臣が10月の会合までに行うよう指示する」
「共同行動」とは極めて重い言葉だ。その中身を議論にするのが今回の会合の目的だ。当然企業のグローバルな経済活動にも大きく影響する(拙稿:G7サミット「強制労働」を見落とすメディアの愚」を参照)
ところが日本の国内政治はそれどころではない。投票日一週間前は選挙運動では絶対外せない重要な時期だ。到底、大臣が出席できる状況にはない。事務方は仕方なく大臣本人の出席をあきらめていたようだ。しかし萩生田光一経済産業相は事の重大さから急きょ選挙戦の合間を縫ってオンラインでの遠隔参加を決断した。

会合後の経産相への記者取材では、強制労働を排除すべく価値観を共有するG7での連携した行動を呼び掛けたことを明らかにした。そして会合後に発表された共同声明では、具体的な方向性をG7として初めて打ち出した。すなわち輸出入規制などの貿易措置がその重要な手段の一つになり得る、と明記されたのだ。
これまでの日本はこの強制労働の問題について「懸念の共有」にとどまっていた。米国が目指す「G7 での共同行動」からは明らかに逃げ腰だったのだ。しかし今回はこうした後ろ向きの姿勢から明らかに一歩前に踏み出した。恐らく大臣自身の政治的判断だろう。
重要な内容であるにもかかわらず、事前における日本のメディアの関心は残念ながらなかった。それは外務省の“逃げ腰姿勢”にも起因する。
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