中国が環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟を正式に申請した。驚きで受け止める向きもあるが、これは予想された動きだ。

 昨年11月、習近平・国家主席がTPP加盟を積極的に検討すると明言していた。以前からTPPへの関心は李克強首相などが表明していたが、この時はトップの発言で重みが違う。真剣な対応をしてくると考えるのが当然だ。現に今年に入ってから、中国はいくつかのTPP加盟国と非公式の協議を水面下で精力的に重ねていた。

中国の狙いは何か

 もちろん狙いは対米戦略であることは衆目の一致するところだ。米国の対中包囲網への揺さぶり、さらには米国に当てつけで反保護主義のアピールといった面もあろう。仮に加盟交渉に時間がかかったとしても、加盟申請して交渉の場についたというだけで対外的に強力なメッセージになると踏んでいる。

 地域包括的経済連携(RCEP)の署名、来年1月発効予定で自信をつけた中国は、巨大市場を武器にアジアの経済秩序で主導権を取ろうとしているのは明らかだ。さらに「バイデン政権は中間選挙に向けて通商戦略の優先度が低いので、米国は何も動けないだろう」というのが中国の見立てのようだ。

習近平・国家主席はTPP加盟を積極的に検討すると明言していた(写真:ロイター/アフロ)
習近平・国家主席はTPP加盟を積極的に検討すると明言していた(写真:ロイター/アフロ)

 また見逃してはならないのが、習政権の「経済の武器化戦略」だ。すなわち他国を経済的に中国に依存させることによって中国の反撃力・打撃力を高める意図だ。これは昨年、習主席の講話でも明らかにされた(拙稿:中国は切り札「レアアース」を出すか? 輸出管理を巡る誤解を解く)。RCEP、TPPについてもアジア各国の中国への経済依存度を高める効果を狙っている。

なぜこのタイミングで動いたのか

 今回の申請のタイミングについて、メディアを見ると、「米国がアフガン撤退の対応に追われている間隙を突いてくさびを打ち込んだ」とか、「米英豪による新たな安全保障協力の枠組みの創設など、対中圧力を強めているからだ」といった最近の動きに絡めて論じている。しかしこれらは後付けの解説で、ややこじ付けに近い。中国はTPPの加盟プロセスを入念に研究して、もっとしたたかに計算している。

 TPP加盟を目指して先行している英国は今年2月に加盟申請した。そして6月に開催された加盟各国の閣僚レベルでのTPP委員会で加盟交渉開始が決定された。この決定を受けて加盟各国と個別に交渉されるが、約1年かかると言われている。加盟交渉入りを認めるかどうかのTPP委員会での決定は全会一致が条件だが、実態は議長国が仕切って主導する。

 今年は日本が議長国だが、2022年はシンガポールが議長国だ。そのシンガポールは早々に中国の加盟申請を歓迎したと伝えられている。中国はそれを見越してシンガポールとは非公式に協議しているのだ。

 中国がタイミングを急いだ理由には、「英国ファクター」と「台湾ファクター」がある。英国が加入してからでは、中国への警戒感が強まった英国とも交渉しなければならない。TPP加盟決定は全会一致が必要であるだけに、それは避けたいだろう。もう一つのファクターが台湾だ。台湾もTPP加盟に向け積極的に動いている。これを阻止すべくTPP加盟国に圧力をかけつつ、自らこれに先行して加盟申請する政治外交的側面もある。中国はしたたかにタイミングを計算していると見ていい。

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