日本企業に深刻な不安が急速に広がっている。米国のバイデン政権は7月13日、中国・新疆ウイグル自治区の供給網を持つ企業に対して、「米国の法律に違反する高いリスクを負う可能性がある」と異例の警告文書を公表した。

 これは米国企業だけに向けて発したものではない。むしろ日本企業がスケープゴートにされかねないのだ。逃げ腰の日本政府が日本企業のリスクを高めていることに気付くべきだ。私がこれまで累次指摘してきた懸念が日に日に現実のものになっている(拙稿「G7外相会議で露呈した『人権問題』という日本のアキレス腱」、「G7サミット、『強制労働』を見落とすメディアの愚」参照)。

 米国はこれまで新疆綿や太陽光パネルの部材の輸入禁止に加え、これらを製造する中国企業やハイテク監視関連の企業などを人権侵害に加担しているとして事実上の禁輸リストに加えている。まさに「調達」と「輸出」の両面で取引を規制している。そしてこれらの規制に違反するリスクへの強い警告を発して、企業に取引の見直しを迫っている。対象業種もさらに幅広く、電子機器、資源、食品、靴、手袋などを加え20業種にも拡大している。

 注目すべきは、「法令違反のリスク」だけでなく、「評判を落とすリスク」にまで言及していることだ。そして厄介なことに、懸念のある中国企業との直接取引だけでなく、2次、3次のサプライヤーといった間接取引でも法令違反のリスクがあるとされている。企業が調べてそこまで把握することは現実には難しいにもかかわらずだ。

「米欧連携、日本孤立」の危険な構図

 この発表で重要な点をメディアは見逃している。第1は、「同盟国との連携」に言及されていて、具体的にカナダ、メキシコ、欧州連合(EU)がどう取り組んでいるかを列挙していることだ。ところが日本については何ら記述がない。裏を返せば「日本は何もやっていない」とのメッセージであり、そのことを読み取るべきだ。

 第2は、米国が発表したまさに同じ日に、EUも供給網における強制労働のリスクに対処するための企業調査のガイダンスを発表していることだ。同じタイミングでの発表は偶然ではないだろう。明らかに米欧は共鳴し合って「共同歩調」で動き出している。日本は残念ながら蚊帳の外だ。

 そして第3に、米国は発表の中で、主要7カ国首脳会議(G7サミット)で合意された宣言文の中の一文を特記している。「グローバルな供給網における強制労働の根絶に向けた共同行動のための作業を今年10月のG7貿易大臣会合までに行う」との一文だ。G7が「共同行動」に合意したことを米国は成果としてクローズアップしているのだ。

 これに対して、日本の外務省はこの重要な一文を同省作成の要旨から落として触れたがらないのは前稿で指摘したとおりだ。いかに消極姿勢の日本が孤立して いるかが見て取れる。

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