半導体は「中国のアキレス腱(けん)」

 今回の供給網の見直しを日本のメディアは一斉に「狙いは脱中国」と報道している。見出しとしてはいいが、この4品目を十把一からげに同じように論じるのは正しくない。

 半導体については、「脱中国」を目指しているわけではない。今、半導体は世界的に供給不足が起きて、自動車産業の生産に深刻な影響が出ている。メディアはこれを今回の供給網の見直しに結び付けているが、これは明らかに的外れだ。今起こっているのは世界的な需給問題であって、供給網の中国依存とは無関係である。

 そもそも半導体は中国依存になってはいない。むしろ構図は正反対で、中国にとっては半導体の低い自給率(15%強)がアキレス腱(けん)となっている。そこで「中国製造2025」においても自給率を70%に高めようと躍起になっている。中国は米国による輸出規制という苦い経験から、迂回調達や米国技術に頼らない生産体制を模索するなど、「米国依存」を脱却しようと急いでいるのだ。

 それを無理やり「米国が中国に依存している」とのストーリーに仕立てるために、半導体の生産能力のシェアが今後急速に伸びて「中国が30年には世界最大になる可能性がある」とのグラフまで付けている。危機感を持つのはいいが、これでは本質外しの印象操作になってしまう。

 こうした論調は、中国企業の半導体メーカーの技術レベルが台湾、韓国に比べ劣後していること、米国の設計技術、日本、欧州、米国の製造装置、部材がないと作れないことなどお構いなしだ。トランプ政権による輸出規制で、中国の半導体受託生産(ファウンドリー)最大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)の生産が打撃を受けていることを見れば、むしろ中国自身の供給網が脆弱であることは明らかだ。

 これに対して、米国は同盟国を自陣営に囲い込んで、中国をけん制すべく供給網を強化しようとしている。台湾の半導体受託製造の最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の工場をアリゾナ州に誘致したのもその一環だ。

 さらに、米国議会も半導体を対中政策の中核に位置付けて、2021年度の国防権限法で、信頼できる半導体供給網の開発・構築のための多国間の基金を設立する。日本も台湾のTSMCを日本に誘致して日本の強みである製造装置メーカー、部材メーカーとの共同開発プロジェクトをスタートしようとしている。

 こうして半導体分野では既に日米台による供給網強化を目指した手が着々と打たれつつある。

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