米国でバイデン政権が発足して気掛かりな点の1つが、トランプ前政権時代の外交政策がどのように変わっていくかだろう。特に、激しく対立した米中関係の行方は、日本の国際的な立ち位置にも大きく影響する。バイデン政権の外交に関わる主要メンバーの顔ぶれからは、対中政策で必要な「荒々しさ」が伝わってこない。外交・通商問題に詳しい細川昌彦氏(明星大学経営学部教授)に話を聞く。(聞き手=大竹剛)

バイデン大統領は政権発足直後から複数の大統領令に署名し、トランプ前政権からの路線転換を印象づけている(写真:AP/アフロ)
バイデン大統領は政権発足直後から複数の大統領令に署名し、トランプ前政権からの路線転換を印象づけている(写真:AP/アフロ)

バイデン新政権がいよいよ始動しました。日本にとって最も重要なポイントは何でしょうか。

細川昌彦氏(以下、細川氏):まず一番大事なのは中国との向き合い方です。これが最大の外交テーマです。

 「バイデン政権になっても米国の中国に対する強硬姿勢は変わらないのですか?」、あるいは「協調路線に軸足が移るのですか?」といった質問をよく受けます。私は「いずれも正しい」と答えています。それは、バイデン政権のどこを見るかによって、答えが異なるからです。

これまで、細川さんは米国を見る際は、「オールワシントン」と「トランプ政権」とを分けて考えなければいけないと指摘してきました。バイデン政権になっても、こうした構造は変わらないというわけですか。

(参考記事:トランプ氏“ファーウェイ発言”の裏にワシントンの暗闘

細川氏:そうです。私の持論ですが、「議会」と「政権」は常に分けて考えるべきです。それは、トランプ政権のときと変わりません。

 今の米国議会は超党派で対中強硬路線になっています。昨年11月にバイデン氏が大統領選で勝利して以降、トランプ氏が退任するまでに様々な対中強硬策が実施されています。それらを指して、「トランプ政権が駆け込みで実施している」とも報道されていました。しかし、政策ごとによく見ると、トランプ政権が主導しているものと、議会が主導しているものがあることが分かります。

 例えば、2021会計年度(20年10月~21年9月)の国防予算の大枠を決める「国防権限法」について、トランプ大統領(当時)は拒否権を発動しましたが、21年1月1日に上院が再可決して成立しています。18年8月に成立した19会計年度の国防権限法から議会の対中強硬姿勢は明確で、華為技術(ファーウェイ)への制裁もここから始まっています。今回の21会計年度版も対中強硬姿勢一色です。

 さらに言えば、超党派の米議会の諮問機関「米中経済・安全保障調査委員会」が毎年出している報告書の21年版が昨年12月に公表されていますが、これも非常に厳しい対中強硬姿勢を打ち出しています。これは単なる諮問機関の報告書ではありません。公表された1~2年後に政策として具体化されてきているものです。そのため、バイデン政権も無視できません。

 ほかにも、「外国企業説明責任法」「チベット人権法」などが成立しています。つまり、議会を中心とする「オールワシントン」は引き続き対中強硬姿勢なわけです。

なるほど。議会の対中姿勢はトランプ政権時代と変わらないわけですね。では、政権側はどうなのですか。

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