(写真:ロイター/アフロ)

 中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が環太平洋経済連携協定(TPP11)への参加意欲を表明したことで、米中相互のけん制が激しさを増している。前稿「惑わされるな! 習近平が切った『中国のTPP参加』カードの巧妙さ」では、米中の思惑を探ってみた。中国の思惑のポイントはこうだ。

 「バイデン次期政権になって米国がTPPに復帰すれば、中国にとってTPPがより強力な対中包囲網になる最悪のシナリオとなる。それを回避するには、中国が米国の復帰前にTPPに加盟するのが得策だ。先に加盟すれば、逆に米国のTPP復帰を阻止して、米国をアジア経済圏から排除できる」

 問題はこうした中国の思惑に対して米国がどう出るかだ。

中国のTPP加盟表明が「wake-up call」になるか

 それは、米紙も指摘しているように、長らく続いている米国のアジア政策軽視の状況への「wake-up call」になるのかどうかだ。仮に中国が加盟すると、米国はアジア経済圏から排除されることは避けられない。米国としては、中国より先に加盟することが決定的に重要だ。

 だが、米国の国内政治は反自由貿易、保護主義を強めており、すんなりとTPPに復帰ができる状況にないのが問題だ。TPPなどの自由貿易が米国の職を奪っているという主張は、米国中西部のラストベルトの人たちにアピールした。そのため既に2016年夏の段階で、当時のオバマ政権はTPP協定の議会承認を得ることができなかった。そうした状況は今も変わらないどころか、ますます増大している。

 前稿で、「バイデン次期政権はTPPへの復帰交渉の過程で党内左派に配慮し、雇用維持のために環境、労働といった条件を上乗せした要求をする可能性もある」と指摘した。

 どういうことか、詳しく説明しよう。

 カギは、北米自由貿易協定の見直し交渉を経て、2018年11月に米国、メキシコ、カナダが署名した米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)だ。トランプ政権は議会民主党を説得するために、環境と労働の規制を強化して、環境規制が緩く、労働賃金の安いメキシコから国内自動車産業の雇用を守ることをアピールして何とか議会の承認を得た。バイデン氏も反自由貿易のサンダース氏など党内左派を取り込むためには必要な要素と考え、通商交渉において労働対策と環境政策を重視する旨を明らかにしている。

 他方で、仮に米国がこうした上乗せ要求を付け加えてTPP復帰の交渉に臨めば、加盟国の反発は必至だ。「そこまでして米国にTPPに戻ってきてもらわなくても結構」との声も出てきかねない。

 米国は読み違えてはいけない。他の加盟国も日本と同じように米国のTPP復帰を熱望していると思うと大間違いだ。多くの国々の本音はこうだろう。

続きを読む 2/2 日本は米中にどう向き合うべきか

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